築地市場
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 日本の食文化を牽引する築地市場(東京都中央区)。今秋、80年以上の歴史に幕を閉じる。11月7日、豊洲市場(同江東区)に移転する予定なのだ。ところが、新たな門出を前に、いま問題が噴出している。市場の最大勢力である水産仲卸業者の主張を聞いた。

[1]高額負担で廃業続出?

 引っ越しに伴う費用は各卸売業者の負担。それに加えて多くの備品も新たに購入する必要が生じる。仲卸業者「佃文」の山縣琢磨社長がこう話す。

「資金力のない小規模な店ほど、負担に耐えられない。現在、仲卸は600店以上ありますが、すでに数十軒が移転を断念すると聞いています。このままでは移転後も廃業が続出し、仲卸の数は今の半分以下になるという予測もある。『目利き』のできる職人が減れば、築地が培ってきた文化が失われてしまいます」

 70代のあるベテラン仲卸業者も、

「築地で半世紀以上働いてきたが、高齢でもう銀行の融資も受けられない。移転をせずにやめてしまいたいと思うこともあります」

 と、寂しげに漏らした。

 東京都はこうした点をどう考えているのか。廃業について市場の広報担当に聞いたが、「個々の事業者の判断なので都ではお答えできない」と突き放された。新市場整備部の担当者は次のように説明する。

「一つでも多くの店に豊洲に移っていただけるよう、できる限りの支援策を考えてきたつもりです。買い替える備品の半額は補助し、移転費用の融資も利子負担の軽減などが決まっている。廃棄物の処理費用や、旧店舗の原状回復義務も免除される。すべての要望には応えられませんが、移転は都だけの判断ではなく、30年かかって業界側と話を積み上げてきたことなのです」

[2]アクセスの悪さ

 市場の立地そのものにも、不安の声が上がっている。

 現在の築地市場は銀座に近い好立地。周辺には都営大江戸線「築地市場駅」、東京メトロ日比谷線「築地駅」の二つの地下鉄駅があり、JR新橋駅からも徒歩10分ほどと、万全のアクセス条件を誇っている。

 一方、豊洲埠頭の先端に位置する豊洲市場は築地から直線距離にして約2キロだが、周辺の公共交通機関は今のところ新交通「ゆりかもめ」の「市場前駅」のみ。海外からの観光客も多く1日4万人以上が出入りする現在の築地市場を考えると、何とも心もとない。

「ゆりかもめ」は1編成あたりの定員が大江戸線や日比谷線の3分の1の300人ほどで、「新橋駅」から「市場前駅」まで片道28分、運賃が380円もかかるのもネックだ。仲卸業者約150人を集めた集会「より良い市場を築くつどい」の世話人に名を連ねる仲卸業者「関富」の関戸富雄社長がこう話す。

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