世紀の大引っ越しを控えているというのに、築地の仲卸業者たちの表情が晴れない。全国各地から集まる水産物を競り落とす目利きのプロ。仲卸業者「佃文」の山縣琢磨社長がこう語る。
「東京都が主導する移転計画は現場の実情に合わないものばかりで、次々と問題点が浮かび上がっている。このままでは大混乱を巻き起こす恐れがあります」
昨年11月には、山縣氏ら5社の代表が世話人となり、仲卸業者約150人を集めた集会「より良い市場を築くつどい」が開かれた。業者たちからは次々と強い不安の声が上がった。
仲卸業者たちは何にそんなに怒っているのか。主張の一部を検証していく。
[1]移転日は繁忙期
築地市場の最終営業日は11月2日。翌3日からの4日間が、移転作業にあてられる。この日程について、山縣氏がこう語る。
「年末の11、12月は一番の繁忙期。セリでも普段の何倍もの量を仕入れるし、年の稼ぎの4割をここで得るという人もいる。昔から市場は『ニッパチ』、つまり2、8月がヒマ。この時期を選ぶのが賢明だったはずです」
一年でもっとも忙しい時期に引っ越しのドタバタが重なれば、経営に支障が出るというのだ。なぜ、そんな時期が選ばれたのか。
「環状2号線の工事を2020年の東京五輪に間に合わせるにはこの時期しかない、という事情があったようです」(ある仲卸役員)
現在、築地市場周辺では、新橋(東京都港区)と豊洲を結ぶ環状2号線の道路建設が進む。
マッカーサー道路の異名もある環状2号線は敗戦直後に都市計画決定されながら、開発はなかなか進まなかった。東京五輪では環状2号線が都心と臨海部の競技場を結ぶ主要ルートになり、開通は是非モノ。このルート上に築地市場があり、市場が解体されるまでは工事に着手できない。
「都庁職員にとっては仲卸の事情などより、東京五輪が何より大事なのでしょう」(同)
東京都中央卸売市場新市場整備部にこうした声への見解を尋ねると、次のように答えた。