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日本の美仏
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 作家でコラムニストの亀和田武氏が、週刊朝日で連載中の『マガジンの虎』。今回は「日本の美仏」を取り上げる。

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 仏像。なんだか私には似合わない言葉だと思う。仏像ブームの勢いは依然として凄まじいが、かけらも興味が湧かなかった。嗚呼、それなのになぜか── 仏(ぶつ(の虜にいきなりなった。去年、宇治の平等院で鳳凰堂の小壁(こかべ)にならぶ雲中供養菩薩像から目が離せなくなった。雲に乗って楽器を弾いたり踊る菩薩たちの魅力的な姿といったら。久しぶりの三十三間堂も、一体一体、色んな角度から眺めて、圧倒されつつ見惚れてしまった。

 美仏という言葉を知ったのは、そのすこし後だ。書店で一冊のムックが目に入った。書名はズバリ「日本の美仏」(エイ出版社)だ。現在の仏像ブームのパイオニア、みうらじゅんが語る。<最近の「仏像がイケてる」という考え方は阿修羅展>以降に定着した表現だと。「国宝 阿修羅展」の開催は2009年だ。<昔はそういう表現をすると叱られる感じがありましたから>。信仰から美に、見る側の力点が移行したのだと。

 みうらじゅんを師と仰ぐ、TBSアナウンサーの小林悠も登場。<仏像好きの女子の心を掴んで離さない二大巨頭>は興福寺の阿修羅像と東寺の帝釈天像なんですが、と小林さん。<私は断然“帝釈天派”です。帝釈天先輩と呼ばせてもらっています。(中略)東寺の五重塔が見えると「あ、帝釈天先輩のご実家が見えるわ。早く会いにいかなきゃ」と思いますね(笑)>

 TBSで69年に放映された『怪奇大作戦』の不朽の名篇「京都買います」を想起した。俗化した京都から美仏を物質転送機でまほろばに移動させる斉藤チヤ子は「許してください。あたしは仏像を愛した女なんです」と岸田森に告げる。この切ない言葉を、仏像女子たちは共有できるだろうか。

週刊朝日 2016年2月5日号