侍ジャパンが予選全勝し、盛り上がりをみせる野球の国際大会「世界野球WBSCプレミア12」。西武ライオンズの元監督・東尾修氏は、各国の取り組みが淡白であることを認めるものの、WBCのように日本がリードし続けることを願う。

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 世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催し、世界ランキング上位12カ国・地域が出場する「プレミア12」の第1回大会で、日本代表が戦っている。

 会場は台湾と日本。開幕戦となった日本-韓国戦(札幌ドーム)で、私はラジオの解説を務めた。

 大事な初戦で、大谷翔平日本ハム)は、6回2安打無失点としっかり結果を残した。中軸打線に立ち向かうときには迫力があり、10三振を奪った。

 だが、私には調子がよくなかったように見えた。シーズン中のよいときに比べて制球がいまひとつだった。やっぱりクライマックスシリーズで敗退して1カ月近く実戦から離れた影響かな。五回に突然、球が抜け始めた。フォークが打者の頭の後ろに行くなんて、長いシーズンでもめったにないこと。投球の際、頭が前に突っ込み、投げる腕と離れてしまうと、シュート気味に抜けてしまうものだ。

 そんな調子でも相手に隙を与えなかったのは、韓国打線に粘りがなかったからだ。私が見てきたかぎり、韓国は国際大会になると強い。兵役免除などの恩恵もあってか、恐ろしいほどの集中力を発揮してくる。一瞬でも隙を見せればたたみ込まれる雰囲気があった。

 だが、今回はどこか淡泊だった。韓国の金寅植監督も大会前に「コンディションが整っていない選手が多いし、ベストメンバーを集められなかった」と話していたが、今大会にかける思いはWBCと比べても物足りない印象だ。

 
 実は韓国だけでなく、他のチームもそうだ。ドミニカ共和国やプエルトリコなど中南米の国では自国のウィンターリーグが真っ盛り。大リーガーの不参加が決まったことも相まって、国内リーグを優先させた選手も多いと聞く。投手陣の起用法を見てもわかる。中核となる先発投手がいないので、細かい継投策を講じる国が多い。

 だが、ものは考えようだ。選手の質や各国の取り組みを見て、大会自体の価値が低いと見限ってしまっては、それまでだ。

 第1回開催の今回は、すべてが手探りだ。2006年の第1回WBCもそうだった。イチロー(当時マリナーズ)の有名な「向こう30年、日本に勝てないと思わせるぐらいやっつけたい」の発言。韓国に負けて、準決勝進出も絶望的な状況に追い込まれながら、最後は勝った。大会が進むにつれ、国民の関心は高まっていった。今回も、日本が真剣に取り組み、日本発で大会を盛り上げるといい。どこかが本気にならないと、大会は続かない。何十年もたった後、「世界一決定戦」と呼ばれる大会になるまで、日本がリードし続ければいい。

 台湾では今、日本のスター選手に注目が集まっている。宿舎には夜中までファンがサインを求めて列をなしていると聞く。うれしいじゃないか。日本だけでなく、アジアのファンが日本の野球を見てくれている。

 相手国のデータもそろわないから、すべてが初顔合わせ。データを駆使した野球に慣れた選手には大変だろう。だが、それこそが国際大会だ。日本国内で、いかに恵まれた環境で野球をしているのかも、若い選手たちは実感できるはずだ。

“侍ジャパン”は常設化されたのだから、世界をリードする形で国際化を図ってほしい。野球少年に「将来日本代表になりたい」と思ってもらえる魅力を携えるためにもね。

週刊朝日 2015年11月27日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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