南シナ海に派遣された米軍のイージス駆逐艦(2005年撮影) (c)朝日新聞社
南シナ海に派遣された米軍のイージス駆逐艦(2005年撮影) (c)朝日新聞社
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 外交とはテーブルの上でケンカしながら、その下では握手をしているもの。いま世界を騒がせている米国と中国も、高度な外交ゲームを繰り広げている。

 中国が領有権を主張する南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島の人工島に、10月26日、米海軍が島から12カイリ(約22キロ)内にイージス駆逐艦を派遣した。「米中衝突か」と、両国の緊迫度は一気に高まったように報じられた。だが、そこには巧妙な駆け引きも透けて見える。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は言う。

「10月中旬、北京郊外で開催された国際安全保障会議『香山フォーラム』で、中国の中央軍事委員会副主席の范長龍上将は、『領土主権の問題であっても、中国は軽々しく武力行使を口にしない』と言っている。范上将の一存とは思えず、習近平・中国国家主席の意を受けたのでしょう。この発言は中国の“愛国者”の反発を招くことは必至だから、習氏は9月25日の米中首脳会談でも『武力衝突は避けよう』と示唆したようです」

 事実、中国外務省は米海軍のイージス艦派遣に「強烈な不満」を表明しながらも、「中国側は一貫して対話による解決を主張している」と抑制的な対応を見せた。一方で米国務省のカービー報道官も「挑発は意図していない」と、にらみ合いの過熱を牽制している。

 米中関係が悪化しているのは、米国側にも理由がある。日米両国の議会をウォッチしてきた、ジャーナリストの田中良紹(よしつぐ)氏は言う。

「来年の米大統領選挙では、米中関係があらためて議論になる。共和党は対中国強硬論を主張し、オバマ米大統領を『弱腰外交』と批判するでしょう。そこでオバマ氏は、先手を打って中国に強い姿勢を示した。もちろん、中東問題で手いっぱいなオバマ氏も、南シナ海での武力衝突は望んでいない」

 米国では、大統領選が近づくと人気取りに強硬論が高まることが多い。では、日本はどう対応すべきか。前出の田岡氏は言う。

「日本でも対中強硬派が米中の衝突を期待していますが、米中の相互依存は絶大で、武力衝突して両国の経済がマヒすれば、日本にも致命的な損害となる。見せかけの米中対立に日本が関わり合いを持つのは、得策ではないでしょう」

 日本人はもっと冷静になったほうがよさそうだ。

(本誌・藤村かおり、牧野めぐみ、松岡かすみ、西岡千史/今西憲之、黒田朔、桐島瞬)

週刊朝日 2015年11月13日号