免許の返納は、生活の足がなくなることに直結する(※イメージ)
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 高齢者の事故が増える中、免許の返納が広がっている。ただ、免許の返納は、生活の足がなくなることに直結する。全国の自治体では、電車やバスなどの割引サービスを実施。なかでも「オンデマンド交通」が発達し、生活を支える新たな取り組みが浸透しつつある。

 山梨県甲州市は、利用者が停留所まで出かけて車に乗る方法を採用している。この停留所は約450カ所に設置。既存のバスよりきめこまかくすることで利便性を高めている。免許返納後の移動のために導入したわけではないが、利用の9割は高齢者という。

 甲州市が導入したのは、東京大学大学院が05年から研究・開発しているオンデマンド交通システム「コンビニクル」だ。通常、自治体側のシステムの導入・運営費用は、何千万円単位でかかると言われている。

 コンビニクルは、ベンチャー企業の「順風路」(東京都豊島区)がサーバーセンターを一括管理しており、初期費用は50万円程度、月々の運営費は約10万円と低価格。採用する自治体が拡大し、9月末現在、33の自治体で導入されている。

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の大和裕幸教授が解説する。

「ドアツードアや、停留所を設けてそこまで利用者に来てもらう、地元のタクシー会社に委託するなど、運行や料金形態、利用の方法は、運営する自治体によって自由に設定できます。甲州市のように市町村合併して、公共交通機関が少ない地域に限定して運行するケースもあります」

 オペレーターに直接電話する方法以外にも、パソコンやスマートフォンで手配できる方法もある。運行記録が蓄積されるので、地域の公共交通の再編計画にも利用でき、将来的にはまちづくりにも活用されることが期待されている。

 千葉県柏市でも、旧沼南町を中心にコンビニクルを導入している。

 8月上旬の朝、近所の3人の女性が乗り合い、向かった先は地元の老人福祉センター。弁当持参で夕方までカラオケを楽しむという。

「息子夫婦と住んでいますが、昼間は一人。子どもに車を出してもらうわけにはいかないので、どこに行くのにもオンデマンド交通が便利です。おかげでひきこもりにならないで済みます」(91歳の女性)

 奈良県三郷町でも、11年12月に「コンビニクル」を導入した。現在、4台の中型タクシーが1日約70件運行している。導入を機に、高齢ドライバー向け講習会を実施し、安全運転の方法を再認識させながら、免許返納の理解をうながしているという。使いたいときに行きたいところへ、こうした仕組みが普及すれば安心して返納できるだろう。

週刊朝日 2015年10月9日号より抜粋