
犬と並んでペットとして飼われることの多い猫。飼っていると不思議なことが多々あるそうだが……。
「私の人生で、亭主がいなかった時期はあっても、猫がいなかったことはない!」
そう豪語するY子さん(50)。36年間の猫歴で、数えきれない珍事を経験したが、一番驚いたのは、ペットショップで巡り合った、ある猫が起こした事件だ。
デパートのペットショップにいたメスのアビシニアンは、すでに生後9カ月で、ブランド猫としては破格の3万円。売れ残りの原因なのか、気難しく、不機嫌そうだった。おまけに誰かがケージを覗き込むたびにシャーッと威嚇する。ところが、Y子さんと母親には、歯を剥かない。それどころか、アビシニアン特有の、鈴を転がすような声で「にゃおん」と鳴いてみせた。
めでたくY子さん家族の一員となった猫は、「ディーナ」と名付けられた。美人だが気まぐれで、気が強い。先住の犬猫たちを蹴散らし、ご飯どきには人の皿にまで手を出すスケ番ぶり。
そして2週間後。なんとディーナの妊娠が発覚した。
Y子さんは大慌てでショップに問い合わせた。回答が来たのは、無事5匹の子猫が生まれた翌日だった。
ショップ側の説明によれば、管理の甘いブリーダーの元で、彼女はアメリカンショートヘアのオスとデキちゃったのだ。猫の妊娠率は90%以上。もはや商品にならないし、生まれてくる子猫も雑種だ。おなかが目立たないうちにブリーダーが焦って出荷したらしい。
子猫たちは無事、Y子さんが信頼する友人たちにもらわれていった。それから16年。ディーナは美スケ番から美魔女となって、品行方正に生涯を閉じた。
彼女の小悪魔キャラをこよなく愛したY子さん。その後も次々と猫も夫も迎え入れたが、あれ以来、ペットショップで“お見合い”することはないという。
※週刊朝日 2015年9月11日号
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