ジャズストリートの読者の皆さんは、おそらくジャズがちんぷんかんぷんでわからないなんてことはないだろうと思うのだが、わたしは最初の頃、ジャズがちっともわからなくて苦労したものだ。
ベースラインがぶんぶんと動き回るので、どこでコードが変わってるのかさえわからない。リズムも跳ねるから三連なのかと思えば四分音符で入ってきたり。リズム感も変わっていて、拍数を数えていても、いつの間にか裏返っていたり。
どこをどう聴けば楽しくなるのか、と思案するより先に、一曲全部丸暗記してしまうのが手っ取り早い方法だ。
教科書を丸暗記するように、ジャズマンのソロを口ずさめるまですっかり憶えてしまう。これがジャズを理解する最短コースではないかと思うのだ。
口ずさむには、演奏のなかに口ずさむことのできるメロディがあることが重要だ。初心者のわたしは、ウエス・モンゴメリーのリヴァーサイド盤『インクレディブル・ジャズ・ギター』を選んだ。
ご存知のように、一曲目の「エアジン」から最後の「風と共に去りぬ」まで、文字通り「信じがたい」ほどの名フレーズの宝庫である。
これをひたすら繰り返し聴く。聴いてフレーズを憶える。憶えるだけでなく、一緒になって唄ってみる。そうすると、リズムのタメや、フレーズの展開、ハーモニーの使い方など、ジャズのエッセンスをすべて無駄なく体内に吸収することができるのだ。
「ジャズとは、いちいち全部丸暗記しないと楽しめない音楽なのか?」と、そう嘆く必要はない。最初の(良質な)一枚を丸々暗記してジャズのなんたるかをおおかた理解できたなら、あとは比較的楽なのである。フレーズを追っかけて、どういう展開に持って行くのかを楽しめるようになっている自分に驚かれるかもしれない。
難しくて理解できない内容のCDが出てきたら、また丸暗記して唄えるまで聴き込んでみる。そうやって、少しずつ理解の幅を広げていくのがわたしのやり方だ。
それでも良さがわからないCDは、いったん寝かせておいて、半年とか一年後に取り出して聴いてみる。そしたら、ある日突然良さがわかったり、わからなかったり。
オーディオ装置を変更したときも、評価見直しのチャンスである。わたしも3年ぶりに装置の一部を変更したので、いま手持ちのCDを片っ端から聴きまくっている。
耳にタコができるほど聴いた曲に新しい発見があったり、これまでまったく印象に残らなかったトラックが俄然よくなって、まるで新曲のように楽しかったり。
こうなると、オーディオの値打ちは計り知れない。
これが名盤で最高!というのも悪くないが、ランク付けは評論家の先生方にお任せして、その一方で、自分だけの名盤や、思い入れたっぷりの隠れた名演を、ひっそり深~く愉しむ。結局は趣味なんだから、愉しんだ人が勝ちなのである。
本盤の「ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス」を聴くと、オートバイで野宿した広島県民の森を思い出す。飯ごうで炊いた米に、レトルトのカレーをかけて食べたこと。建て終わる前に日が暮れてしまい、倒れそうな状態のテントで寝たことなど、そこで聴いたわけでもないのに、ウエスのギターの音色が思い出とぴったり重なっている。まさしくわたしだけの宝物。
【収録曲一覧】
1. Airegin
2. D-Natural Blues
3. Polka Dots And Moonbeams
4. Four On Six
5. West Coast Blues
6. In Your Own Sweet Way
7. Mr Walker
8. Gone With The Wind