協議に消極的な姿勢を見せる安倍政権。ジャーナリストの田原総一朗氏は、政治家を支える官僚たちに問題があるという。

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 先日、国土交通省に今年入省した官僚たちの研修会に呼ばれた。百数十人の新官僚に1時間半話をしてほしいというのである。

 何を話せばよいのか。いろいろ迷った末、4月20日付の日経新聞の世論調査を持ち出した。

[1]消費税率を2017年4月に10%に上げることに「賛成」が31%、「反対」が58%。

[2]集団的自衛権行使に関する法案成立に「賛成」が29%、「反対」が52%。

[3]米軍普天間基地の辺野古移設は「計画通りに」が36%、「見直すべきだ」が47%。

[4]原発再稼働は「進めるべきだ」が30%、「進めるべきでない」が58%。

 民意は、いずれも反対のほうが多い。しかし「民意」に逆らって、それらをやるのがあなたたちの役割だ、と私は述べたのである。

 かつて、竹下登という政治家が、私に次のようなことを言った。

「国民に歓迎され、好かれたいと思う人間は野党の政治家になれ。そして国民から嫌われる覚悟を持てる人間が政権与党の政治家になるべきである」

 竹下登という政治家は、いわゆる「エエカッコ」をしない。その意味では国民ウケのしない人物であったが、彼の言葉は至言だと、私は強く感じている。

 
「民意」は、消費税率を17年4月に10%に上げることに反対だが、現実は「民意」に抗して15%以上に上げなくてはならないはずである。そしてそれをやるのが官僚の役割である。もちろん税率を上げるのを決めるのは政治家である。そして官僚は政治家の指示に従って動く、というのが建前だが、実際は政策を構築するのも、戦略を練るのも官僚の仕事であり、たとえばテレビでいうならばプロデューサーやディレクターが官僚であって、キャスター役が政治家なのである。

 たとえば、安倍内閣は米軍普天間基地の移設先を辺野古と定め、地元の沖縄は強固に反対している。そして世論調査では「計画通りに」は36%しかない。

 だが、かつて自民党の橋本龍太郎首相の時代に、沖縄県民たちは、一度は辺野古移設を受け入れているのである。

 それも力ずくで強引にやったのではない。私は野中広務氏から、そのときの話を詳しく聞いた。

 野中氏は、沖縄のすべての島を全部歩き、どの島の人々とも酒を飲み、とことん話したということである。沖縄の人々の言うこと、言いたいことを時間をかけてじっくり聞いた。誠意を持って話し合えば、最後にはお互い理解し合えるものだと野中氏は言う。沖縄の人々が、野中という人間は信用できると思うに至ったのである。

 そして、橋本内閣を継いだ小渕恵三首相は、なんと沖縄の辺野古のある名護でサミットをやることに決めた。このとき、野中氏は官房長官であった。沖縄県民は野中氏に裏切られなかったのである。その野中氏が最も信頼している政治家が、竹下登氏なのである。

 民主党内閣も、安倍内閣も、なぜか話し合うという姿勢があまりにも希薄である。安倍晋三首相も菅義偉官房長官も、いわばキャスターである。私は、話し合う姿勢の希薄さは、実はプロデューサー、ディレクターとしての官僚たちに問題があるのだとみている。責任回避か怠慢のいずれかである。

週刊朝日 2015年5月8-15日号