「政府は具体的な場面を想定せず、できることは何でもやれるようにするつもりです。結果的に抽象的な法律になる。隊員の生命を危険にさらす作戦でも、軍事知識に乏しい政治家に命令されれば、自衛隊も対応せざるをえない」
過去の実例として、イラク戦争後に陸上自衛隊が同国のサマワで行った人道復興支援を思い出す人も多いだろう。この活動は「給水」「医療支援」「学校・道路の補修」などを中心に2年半実施されたが、幸いにも一人の死者も出なかった。「非戦闘地域」というしばりをかけ、武力行使と一体化することを慎重に避けたためだ。それでも、帰国後に精神的な苦痛から自殺した隊員が相次ぎ、危険地域の海外派遣に課題を残した。
これが新たな安保法制では、ゲリラ部隊から攻撃されやすい検問などの「治安維持活動」や、武器・弾薬などを他国の軍に支援する「後方支援」など、危険度の高い任務も可能になる。
「イラク戦争で治安維持を担ったオーストラリア軍は、ピーク時で1150人を派遣、2007~13年の間に41人の死者を出した。仮に、自衛隊が4年間千人を派遣し、オーストラリアと同様の活動をすれば、16人程度の戦死者が出る計算です」(軍事評論家・田岡俊次氏)
安倍政権の要求に、自衛隊関係者からも苦言が出ている。自衛隊機関紙の「朝雲新聞」は、外国でテロに巻き込まれた邦人を救出する「邦人救出」の難しさについて2月12日付のコラムで、
「(政府は)海外における邦人保護にはおのずと限界があることを伝えなければならない」
と、安倍首相の姿勢を批判した。軍事ジャーナリストの清谷信一氏は言う。
「結論から言えば、自衛隊に邦人救出や治安維持活動をする能力はありません。自衛隊は実戦を前提とした訓練や装備をしていない。そのことは現場の隊員はわかっている。それでも政治家の命令で無理に戦地に行けば、死体の山になる」
※週刊朝日 2015年4月10日号より抜粋