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 薬に頼らずに認知症の症状を改善させる「認知症リハビリ」をご存じだろうか。折り紙や絵画などを通し、認知機能を回復させるもので、症状が改善したという声が多数あがっている。これまで介護保険のなかで実施されていたが、効果が実証され、2014年4月からは健康保険でも利用できるようになった。

 医療現場への導入で注目される認知症リハビリだが、普及にはまだ問題がある。

 介護保険でも当初そうであったように、健康保険でも試験的導入という位置づけで、医療機関も対象となる患者も限られる。実施している医療機関は全国で95病院(15年2月時点、編集部調べ)しかなく、対象も、精神科病院などの認知症治療病棟に入院している患者や認知症の専門病院に入院している重度の患者に限られる。

 さらに実施できても、保険診療として認められるのは、入院した日から1カ月以内に週3回を限度に1回20分だけと決まっている。それ以上やってはいけないわけではないが、その分は、医療機関のボランティアになってしまう。

 リハビリを中心とした医療サービスを提供、在宅復帰を目的とした介護老人保健施設やグループホームなどを運営する医療法人「大誠会」の理事長の田中志子医師は、認知症リハビリを実施するタイミングの難しさについて、こう指摘する。

「大事なのは、その方の気持ちが乗っている時間にリハビリに導けるかなんです。逆に言うと、気持ちが乗っていないときに無理強いしてしまうとダメ。気持ちが乗らなければ、『じゃあ、またあとでやりましょうね』と時間を変更したり、中止したりする必要があります。また、認知症リハビリに持っていくまでの数十分、実施する20分、終わった後の数十分というトータルで考えることが重要で、24時間生活している流れのなかで、リハビリの厚みを出していくことが大切なんです」

 認知症リハビリが健康保険で導入されたこと自体は大きな一歩だ。しかし、もっとも食い止めなければならない早期の軽度認知症には適用されず、まだ「風穴が開いたにすぎない状況」(田中医師)だ。多くの認知症患者の受け皿になるよう、有効性を示すデータが報告され、普及していくことが望まれる。

週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋