これはもはや社会現象だ──。5940円の経済専門書『21世紀の資本』(みすず書房)が、発売から2カ月弱で13万部を突破した。著者のフランスの経済学者ピケティ氏は、1月29日の来日シンポジウムで日本についてこう語った。
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日本の格差は米国より低いが、増大している。トップ10%の層の所得が、全体の30~40%にまで上がっている。それでも高成長の時代であれば、誰でも恩恵を受けられるので大きな問題ではない。しかし、低成長の時代に富の集中が起きていることは深刻な問題です。
日本の最高所得税率はあまり高くない。1960~70年代の水準と比べても、低くなっています。国際的な水準から見ても高くない。これは、トップの層の所得は増えているのに、税率は下がっていることを意味します。日本は、所得税の累進性を高めるべきです。
──この発言は、パネルディスカッションに登壇した西村康稔(やすとし)内閣府副大臣が、安倍政権の経済政策について説明したことへの返答だった。西村副大臣は「日本の格差は米国より小さい」「雇用者数は100万人増えた」「アベノミクスの成果を全国津々浦々に」と強調。アベノミクスの成果を紹介した。だが、ピケティは疑問点を次々と指摘していく。
私の見方では、消費増税は正しい方向ではない。それよりも、低中所得者の所得税を下げ、固定資産税を増やす。このほうが現実の日本経済の状況に合うのではないか。特に若い世代にプラスになる。
紙幣を増刷するのはいいことなのだろうか。増やしたお金は、資産や不動産のバブルになるだけで、一般の人への恩恵にはならないのではないか。物価のインフレを起こしたいのであれば、賃金を増やさなければなりません。
欧州と米国、そして日本も金融政策に依存しすぎています。むしろ財政改革、教育改革、累進制のある税制が必要でしょう。もちろん、インフレ率は0%より、2~3%あったほうがいい。ただし、金融緩和や紙幣の増刷では不十分だと思います。
※週刊朝日 2015年2月13日号より抜粋