“伝説のディーラー”と呼ばれモルガン銀行東京支店長などを務めた藤巻健史氏は、今後も円安は進むと断言する。
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テニス仲間に「フジマキさん、サーブ権を決めるトスの時だけはよく当てるね~。たまには相場も当てないとね」と、つい先日まで揶揄され続けてきた。「せめて(死んだ後に評価が高まった)ゴッホと言われたい」と強がりを言ってきたが、どうやら死ぬ前に、多少なりとも名誉回復ができそうな円安・ドル高の勢いだ。最近ではテニス仲間に「今日のテニス、躍動感がすごいね。円の重しが取れたドルみたいだね」と言われるほどだ。
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某役所出身の方と会話をしていたら「ニューヨーク勤務時代は良かった。円が強かったので、贅沢な生活ができた。だから円高が良い」とおっしゃるのだ。
あきれた。お役人であれば円高になっても仕事はなくならないし、給料が減ることもない。だから円高はいいだろう。しかし、普通の日本人にとっては、円高は「失業」と「給料減」を意味する。企業は強い円で外国人を雇う、すなわち空洞化が進むのだ。工場が海外に行ってしまえば、日本人の労働力は供給過多になり、賃金水準は下がる。
日本人は強い円で安くなる海外旅行に出かけるから、沖縄、北海道などの観光地のバスの運転手さんもホテル従業員も仕事を失う。強い円で安くなる海外農産物と競争せざるをえないから、日本の農家の収入は減る。
為替に関しては「輸出」の観点からしか議論がなされないが、「日本人に仕事が回ってくるか否か」の観点のほうがより重要なのだ。人間、働いて稼ぐか、お金に稼いでもらうしか生きる術がないのだから、為替は日本人にとって死活問題のはずなのだ。
一度、海外に出ていった工場は、なかなか日本に戻ってこない。だからこそ、私は「空洞化を防ぎ、日本人の職を確保するためにも円高を防止せよ」と声高に主張してきたのだ。企業は撤退費用も高くつくから、1ドル=120円程度の為替レベルでは戻ってはこない。しかし180円、200円となれば話は違うだろう。
ところが、巷では「円安行き過ぎ論」が出てきた。この程度で円安が止まれば日本人に仕事は戻ってこず、賃金の上昇もない。低位安定経済が続いてしまうのだ。120円レベルの為替は過去に何度も経験している。200円時代や240円時代と、今よりはるかな円安時代でも円高が大変だと騒いでいたのだ。なぜ120円レベルで騒ぐのか?
円安が行き過ぎていようがいまいが、今後とも、円安は進むだろう。議論をしている間にドルを買っていたほうが賢明だ。テーパリング(量的緩和の縮小)が終了し、もう国債を買わない(=新しい紙幣を刷らない)FRB(米連邦準備制度理事会)と、国債を買い続ける(=新しい紙幣を刷り続ける)日銀のスタンスの差は強烈だからだ。
ドルと円はどちらに希少価値がありますか? という話である。現在、日銀以外に国債保有を増やす機関がない以上、日銀が国債を買い、刷り上がった紙幣を政府に渡さないと、政府は資金繰り倒産をしてしまう。税収は歳出の約半分しかないからだ。
日銀は国債を未来永劫に買い続けなければならない。ということは、円は未来永劫に天から降り注いでくるということだ。誰がそんな紙幣を信じ続けるのか? 円紙幣が紙くずになる日(=ハイパーインフレ)もそんなに遠いとは思えない。
※週刊朝日 2015年1月16日号