国内で約5200万人のユーザー数を誇るまでに急成長した、メッセンジャーアプリの「LINE」。しかし、その陰ではアカウントが乗っ取られ、“黒柳徹子詐欺”などトラブルが多発している。
≪何していますか?忙しいですか?手伝ってもらってもいいですか?≫
6月某日、記者のLINEに友人の「A君」のアカウントから不思議なメッセージが届いた。
≪なんかあった?≫と送信をしたら、唐突に「A君」は≪近くのコンビニエンスストアで電子マネーのプリペイドカードを買うのを手伝ってもらえますか?≫と返信。怪しかったので、「A君」に≪偽物ではないか≫と追及したら、約1時間後にLINE上からそのアカウントは消えていた……。
そのとき起こっていた出来事を「本物」のA君はこう振り返る。
「突然、LINEが使えなくなり、職場の人から『A君のアカウントから怪しいメッセージが届いた』と報告を受けました。その場で運営会社に連絡をして、アカウントを停止させ、新しく作り直しました」
こうしてLINEのアカウントが何者かによって乗っ取られるケースが、6月から全国で多発している。乗っ取る側の目的はアカウントの持ち主になりすまして、「友達」に電子マネーの購入を持ちかけ、そのプリペイド番号を聞き出すことだ。
「東京都内だけでも6月から7月18日までの間、100件の電子マネーを奪い取られたケースが確認されており、被害総額は約650万円に上ります」(警視庁)
ITジャーナリストの三上洋氏は規模の大きさについてこう語る。
「5月末から6月の中ごろにかけて、大手SNSサイトの『ミクシィ』でも、今回のLINEと同じ手口で約26万件の乗っ取りが発生したばかり。運営会社は公表していませんが、LINEの乗っ取りも同規模の件数が起きているでしょう。非常に身近なリスクです」
乗っ取りが拡大している原因は、大勢の人がLINEを含む複数のサイトで同一のパスワードを使いまわしていることだ。犯人は何かしらのサイトから流出した大量のIDとパスワードをかたっぱしからLINEに当てはめていき、合致したアカウントを乗っ取るからだ。
「IT業界では個人情報の流出や不正ログイン事件が絶えません。IDやパスワードは漏洩して当たり前くらいに考えたほうがいい。だから、複数のサイトでパスワードを使いまわすことを、今すぐやめてください」(三上氏)
LINEを運営するLINE株式会社は、対処策をこう説明した。
「他の携帯からログインできないようにする『PINコード』を自ら設定していただくように、お願いを行っています」
しかし、現在も乗っ取りは発生し続けている。ネット犯罪に詳しい神戸大学教授の森井昌克氏は、こう警告する。
「最近ではタレントの黒柳徹子さんになりすましたアカウントから、≪10万円を振り込めば『徹子の部屋』に出演できます≫とメッセージが送られてくる詐欺もあると聞いています。今後、LINEを舞台にさまざまな種類の詐欺が増えていく可能性が考えられます。少しでも怪しいメッセージが届いたら、まずは疑ってみてください」
便利さには落とし穴もあることを肝に銘じるべきだ。
(本誌・福田雄一)
※週刊朝日 2014年9月5日号