文筆家の北原みのり氏は、最近起きた、ある事件によって「猥褻とは何か」について、考えているという。
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自身の女性器を3Dスキャンし、そのデータを頒布した容疑で漫画家のろくでなし子さんが逮捕された(その後釈放)。私の会社で彼女の作品を何点か飾っていたせいか、会社に警視庁の人たちが来た。女性器を石膏で象った上にジオラマを表現した作品だ。傍目には女性器には見えないが、証拠品として押収されたので「これも猥褻物でしょうか?」と聞くと、「それは裁判所が決めること」という方もいれば、「これは……」と絶句される方もいた。
それから、猥褻とはなんぞや、と考えている。私の会社にはセックストーイが並んでいる。以前、所轄の警察に「性器に見えるものを陳列してはダメ」と聞いた。ペニスの形をしていてもピンク色など非リアルだったらOKだが、肌の色に近いものはダメなど、要は「性器にしか見えない」ものは猥褻なのだと教わった……が、今回のなし子さんの逮捕で、私は途端に不安になったのだった。猥褻の基準って、何だろう!
そこで弁護士でゲイでお友達のみなみかずゆき君に、私の会社に並んでいる物を見てもらって「この中でペニスに見えるものある?」と聞いた。さすがペニスに一家言あるみなみ君だけあって、「これ、これ、これ」とさくさくと「ペニスに見える」ものを選んでくれたのだが……これが、私には全くもって納得いかないのだった。私の目には、それは椋鳥にしか見えないカワイイバイブなのだ。「これのどこがペニスに見えるのよ?」と私が聞くと、みなみ君は「まごうかたなき、ペニスです!」と言い張るのであった。ちなみにそれは、白く、先端が鳥の嘴のように曲がり、根元にブルーのストライプ……である。一方私が選ぶものを、彼は「は?」みたいな顔で否定する。
猥褻どころか、ペニスのことまで、全く分からなくなるのであった。
とりあえず私は、みなみ君が「ペニスに見える」と言い張るカワイイ形のオモチャを、倉庫にしまいました。何を猥褻とするかどころか、何がペニスに見えるのかも主観なのかも。猥褻と言われるものを身体につけている身として、困惑しながら。
※週刊朝日 2014年8月1日号