集団的自衛権の行使容認をアピールする安倍晋三首相 (c)朝日新聞社 @@写禁
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「安倍首相はアジアで最も危険な人物」。米国の有力ヘッジファンド「キニコス・アソシエーツ」設立者で米大物投資家ジェームズ・チャノス氏の衝撃的な発言が5月中旬、世界のマーケットを駆け巡った。超大物投資家、ジョージ・ソロス氏も4月に「日本はとても危険」と断じたばかり。オバマ大統領の来日を機に蜜月を演出したい首相の思惑は外れ、日本売りが加速している。

 ブルームバーグ・ニュースのワシントン支局の山広恒夫氏がこう解説する。

「チャノス氏は世界平和を願って発言しているわけではなく、狙いは日本株崩しでしょう。ここ数年、空売りを仕掛けていた中国株がなかなか沈まないので、日本に触手を伸ばしてきた可能性があります。安倍首相は経済を立て直す前に憲法改正など宿願だった政策に軸足を移しつつある。東アジアが不安定になるのを望まないオバマ大統領は、柔軟な外交ができない日本にいら立ちを感じている。そうした隙を狙われたということでしょう」

 米紙大手、ニューヨーク・タイムズも「解釈改憲は民主主義を傷つける行為。憲法は権力をチェックするものであることを安倍首相は知るべき」(5月8日付)と痛烈に批判していた。

 米国がこうした日本批判をメディアを通して世界中に発信することによって、日本株売りの空気が醸成され、株価が下がれば、空売りを仕掛けたチャノス氏らハゲタカ・ファンドが儲かるという仕組みだ。

 オチオチしていられないデータもある。今年に入り、外国人投資家が続々と日本売りを進めているのである。

 アベノミクスが好調だった昨年、外国人投資家は日本株を約15兆円も買い越した。ところが今年に入ると状況は一転。1月に過去最大級の約1兆1700億円も売り越すと、2、3月も売りが先行。4月には、いったん買い越し額が上回ったが、5月は再び売りが先行している。楽天証券経済研究所の山崎元(はじめ)・客員研究員がこう語る。

「昨年、アベノミクスの効果で日本株は57%も上昇しており、外国人投資家も買い疲れている。日本企業の今春の決算はどこも好調だったのに、それほど株が買われていないのも気になる。アベノミクスを支えてきた金融緩和政策もそろそろ『弾切れ』となりつつあり、外国人投資家も『どこまでお付き合いするか』を見定めようとしているのではないか」

 こうした動きを象徴したのが、今年に入り、「大量の日本株を売っている」とも噂される超大物投資家ジョージ・ソロス氏の言動だ。4月、米CNBCのインタビューに応じたソロス氏は「日本がしていることはとても危険だ」「円が下落を始めたら日本人はそれが止まらないと気づき、海外に資金を退避させようとし、下落は雪崩のようになるかもしれない」などと発言。日本経済の先行きに対して悲観的な発言を繰り返したのだ。

(本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2014年6月6日号より抜粋