パソコンや携帯電話・スマートフォン(スマホ)などIT機器の使用がやめられなくなり、身体面や精神面に問題が生じる、ネット依存。オンラインゲームやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及で、近年、社会問題になっている。

 ネット依存の問題は、子どもたちにも押し寄せている。ネット依存の治療に取り組む成城墨岡クリニックには、昨年だけで300人弱の患者が来院した。院長の墨岡孝医師によると、最年少は10歳。平均年齢は17.8歳だという。

「最近は、オンラインゲームによる依存よりも、SNSによる“きずな依存”“つながり依存”に陥っている子が増えています。子どもの場合、他人とのコミュニケーションのやり方を学ぶより先に、スマホを持って利用してしまう。そのため他人との距離感、付き合い方がわからず、“ネットで他人とつながることがすべて”という状況に陥りやすいのです」(墨岡医師)

 都内の私立高校に通う高校2年生の森山有紀さん(仮名)がスマホを使い始めたのは、中学生のとき。当初は親の監視もあって使用頻度は低かったが、高校に入ってからは、仲の良いグループ内で、頻繁にSNSでやりとりするようになった。

 深夜も食事中もスマホを手放さなくなった有紀さんを母親が叱ったところ、食事を一緒にとらなくなり、自室にこもるように。成績も下がり、学校も休みがちになった娘に不安を覚えた母親が墨岡医師に相談した。

「子どものネット依存では家族が相談してくるケースがほとんど。最初から子どもをクリニックに連れてくることはむずかしいので、まずは家族のカウンセリングと、ネットに対する教育から始めていきます」(同)

 母親が通院を始めて2カ月。「私も一緒に行く」と有紀さんは言いだした。進級も危ぶまれ、自身も「このままでは良くない」と感じ始めていた。

 治療を受けることとなった有紀さんに墨岡医師が試みたのは、認知行動療法だ。自分の行動を振り返り、ネットに頼らない生活習慣を作り上げていく。同クリニックではネットの利点・欠点を書いたカードを作り、それを持ち歩く。ネットをやりたいという気持ちをコントロールするのに役立てるためだ。

 もともとは「友達とつながっていたい」という思いからSNSを始めた有紀さん。カウンセリングでは、「昼夜問わず友達とやりとりしなければならないこと」や、「すぐに返事を書かなければならないこと」などに苦痛を覚えていると墨岡医師に打ち明けた。

「きずな依存の場合、ネットそのものを断ち切ることよりはむしろ、きずなに対する認知を修正していくことのほうが重要になります。有紀さんが心配していたのは、SNSに参加しなくなることでいじめられたり、仲間はずれにされたりすることでした」(同)

週刊朝日  2014年4月25日号より抜粋