日本銀行がインフレをめざして踏み切った「異次元の金融緩和」も、期限まであと1年となった。だが、インフレは消費増税による「仮面」で、安倍政権や日銀の努力もむなしく、事実上は「デフレ」に逆戻りするというのだ。

 東京大学大学院の渡辺努教授は、「日銀の戦略ミス」だとして、こう指摘する。

「物価が上がりにくい枠組みを2年で変えるには無理がある。『長い目で見て』と言うべきでした」

 実は日銀自身、こうした無理は「最初から承知していた」との見方も根強い。

「政権の要請もあって、期限を明確にしなければいけない雰囲気でした」(日銀関係者)

 それほど、政権も目標達成にこだわっている。こちらは「賃上げ」を柱のひとつに据えた。安倍首相は、「経済を好循環させるには賃上げが必要」と繰り返し、今春の労使交渉は「官製春闘」とも言われた。

 ある財界人は、「あくまでも労使問題だから、政治が口を出すのはよくない。思い上がりも甚だしいし、筋が違う」と批判し、別の企業の経営者もやや迷惑顔だ。

「アベノミクスによる円安で恩恵を受けた以上、『お付き合い』は仕方ない」

 実際に大手企業では「基本給を一律に引き上げるベースアップ」が相次いだ。トヨタ自動車では「年齢や勤続年数によって上がる定期昇給」と合わせて1万円の賃上げとなった。

 その一方で昨年4月~12月の業績をみると、前年に比べて増えた営業利益1兆374億円のうち、為替変動の影響と原価改善の努力が計1兆100億円を占める。

「日本企業は昨年、円安とコスト削減で利益を出したに過ぎない。来年も持続的に賃上げをするのは難しそうです」(ある専門家)

「最大の要因」が力不足となれば、インフレ目標の達成はますます厳しくなる。日銀も追い詰められたのか、昨秋ごろから、

「発言の軌道修正を始めました。『期限内の目標達成は難しい』と考えているようです」(日銀OB)

 その「状況証拠」のひとつが、黒田総裁が昨年12月に名古屋の財界人の前で、「政策運営についての何らかの期限を示したものではありません」と語ったことだとされる。

 ある外国人投資家は、「黒田総裁が弱気を隠そうとしなくなった」と受け取った。投資家の間では、こんなうわさも飛び交っていたのだ。

<日銀首脳が非公式に「中期的に、四捨五入して2%になればいい。1.5%で十分」と語った>

 とても真実だとは思えない内容だが、それでも簡単に消えなかったのは、「海外投資家がすでに安倍政権や日銀に対する信頼を失っているからです」(外資系証券会社の幹部)。

週刊朝日  2014年4月11日号