ミュージカル「ライオンキング」や映画「ラスト サムライ」など、子役時代から活躍している池松壮亮さん。公開中の映画「愛の渦」について語ってくれた。

「撮影に入る前から、(監督の)三浦さんは、『怖い人だよ』『役者に対しては鬼だよ』って聞いていました。でも、僕みたいな未熟な俳優が、監督から怒られるのは当たり前なんで。とくに気後れはしなかったです。実際は、拍子抜けするほど優しかったですけど」

 高級マンションの一室に、ただセックスがしたいだけの男女が8人集まり、性欲を剥き出しにしていく――。裏風俗というショッキングなテーマを扱った映画「愛の渦」で、池松さんは、親の仕送りで乱交パーティーに参加した“ニート”を演じた。作品は、監督の三浦大輔さんが主宰する演劇ユニット「ポツドール」の代表作。2006年には、“演劇界の芥川賞”とも呼ばれる第50回岸田國士戯曲賞を受賞した。

「上京して、いろんな作品に出させてもらうようになって5年になるんですけど、年々嘘をつくのがイヤになっている自分がいて……。お芝居も一種の嘘なんだけれど、もっと嘘じゃないやり方でアプローチすることはできないかなって。そんなことを考え始めた時期に、この作品に出会ったんです」

 上映時間123分中、着衣時間はわずか18分半。肉体的にも無防備だが、繰り広げられる会話のなかで、8人の本音や本性も、あらわになっていく。

「台本を読んで、ものすごい人間観察劇だな、と思いました。僕が今まで演じてきた役は、真面目で善良な少年の役が多かったんですけど、ちょっとそういう正統派の役に疲れていたのかな。芝居でなら、いい人も悪い人の役を演じることができるし、悪い人のほうがいい人の役を演じるのがうまかったりする。でも、世の中にいる人たちすべてが、いい人か悪い人のどちらかに分類されるわけじゃない。むしろ、いい面も悪い面も、両方あるのが人間なんじゃないか。漠然と、そんなふうに感じていたから、今回の役が“嘘じゃない”と思えたのかもしれないですね」

 いくら作品に惚れ込んだとはいえ、いわゆる“イケメン若手俳優”が、ここまで体を張ることは珍しい。自分のすべてを委ねるには、よほど監督を信頼していないと難しいはずだ。

「まだあまり会話をしたことがなかった段階で、監督から言われたんです。『池松くんって、そんなに真面目じゃないよね?』って、さらっと。そのとき、『ああ、やっとそう言ってくれる人が現れた!』って思って」

 仕上がった作品を観るときは、自分の粗ばかり探してしまう癖があった。だから、いつもあまり客観的にはなれなかったという。「それが、生まれて初めて、作品そのものを“面白い!”って素直に思えたんですよ」と、はにかみながら、でも嬉しそうに話した。

「ただ、この映画にエロさを求める人は、肩すかしを食らうんじゃないですか(笑)。視覚的に際どいシーンはいっぱいあるけど、そこで繰り広げられる会話のほうが際どいから」

 そう話す彼の佇まいからは、青臭さと色気、翳(かげ)りと情熱といったような相反する要素が複雑に入り交じった、独特の雰囲気が漂っていた。

週刊朝日  2014年3月14日号