文筆家・北原みのり氏が共著で新刊本を出した。「“毒婦”と呼ばれた女たち」についての鼎談である。

*  *  *

 先日『毒婦たち』という本を河出書房新社から出しました。上野千鶴子さん、信田さよ子さんと3人で、「女が男を殺すときとは?」という恐ろしいことを語り合った本です。

 一審で死刑判決が出た木嶋佳苗のこと、留置場で自ら命を絶った角田美代子のこと、そして「殺された」東電OLのこと。鼎談では何人もの女性が登場しますが、私たちが特に熱心に語ったのはその3人でした。

 担当編集者は30代女性。彼女が言うには、「東電OLは上野さん、角田美代子は信田さん、木嶋佳苗は北原さんだと思って、編集しました」とのことです。

 え? 私、佳苗だったの?と驚いたんですけど、みんなは何故私が驚いているのか分からない、という顔をするので、ホント、自分のことってよく見えないものですね。では、日本を代表するフェミニスト、上野千鶴子さんが、渋谷でセックスを売り続け殺された東電OLだとは? 家族の問題を容赦なく暴き続けるカウンセラー信田さよ子さんが他人の家族を暴力的に破壊していった角田美代子だとは?

 ちなみに、『毒婦たち』には最強の応援をいただきました。壇蜜さんが本になる前に読んで下さり、応援文を書いて下さったのです。

「欲しいものがありました。でも貰えませんでした。だから、こうなりました。私も、彼女たちも」

 なんて素晴らしいコピーだっ! そしてこのコピーを頂いてからずっと考えさせられています。壇蜜さんが「欲しかったもの」は何だったんだろう、と。女が毒婦と呼ばれるまでに、諦めてきたもの、捨ててきたものは、いったいいくつあるのだろう。いったいなぜ私は佳苗に惹かれ、上野さんは東電OLを胸に抱き続け、信田さんは角田美代子の暴力に魅了されているのだろう。自分に近い毒を持つ女に、女は惹かれるんだろうか? では、解毒するには、どうすればいいんだろうか? 本を書き終えてなお、毒婦を語りたがる私がいます。

 さあ、女たちが毒婦になっていく様を、ぜひ『毒婦たち』で、お楽しみ下さいね。以上……すみません宣伝でした!

週刊朝日  2013年11月15日号