2013年4月の発売直後、都内の書店で山積みにされた『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 (c)朝日新聞社 @@写禁
2013年4月の発売直後、都内の書店で山積みにされた『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 (c)朝日新聞社 @@写禁
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 今年も「ノーベル賞週間」が10月7日から始まる。医学生理学賞から順番に発表されていくわけだが、なかでも注目されるのが10日に発表されると見られる文学賞だ。果たして、村上春樹氏の受賞はいかに。

 同賞の候補に村上氏の名前が挙がり始めたのは、2006年にノーベル賞への登竜門とされる、フランツ・カフカ賞を受賞したころからだ。それから毎年、海外のブックメーカー(賭け屋)が発表するノーベル文学賞の予想順位で好位置をキープ。

 今年9月に、世界最大規模のブックメーカーが発表した受賞者予想オッズ(賭け率)でも堂々の一番人気。国内外からの期待は高まるばかりだ。しかし、これまでにも長らく「お預け」を受けてきただけに、今年もやはり厳しいのではないか、という見方も、依然根強い。村上氏を熱烈に支持する「ハルキスト」たちのためにも、これまで悲願を阻んできた「壁」を解説してみよう。

 まず、一つ目の壁は「ハルキ文学」が「純文学ではない」と指摘される点だ。伝統的に、ノーベル文学賞は、娯楽小説ではなく「純文学」で勝負する作家に与えられてきた。比較文学者で作家の小谷野敦氏は指摘する。

「『1Q84』が特に通俗的だ。むしろ『純文学』から遠ざかりつつある」

 事実、日本人でこれまで受賞している川端康成、大江健三郎の両氏も「純文学」作家だ。

 またそれに伴って、二つ目の壁、「性表現」も立ちはだかる。英語版を始めとする海外の翻訳版では、表現は穏やかになっているとされるが、「『1Q84』では、未成年との性交渉をしっかりと描いてしまった。これは海外では、かなり厳しい」(前出の小谷野氏)

 確かに、『1Q84』では、国内からも、露骨な性描写を指摘する声があったのは事実である。しかし、思想家で神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏は、この指摘にこんな反論をする。

「世界的な人気という点でも、世界に与えた文学的業績への評価の高さでも、すでに過去の受賞者たちのレベルを十分にクリアしていると思います」

 過去にノーベル文学賞を受賞したヘミングウェイ、ガルシア・マルケスらも、「娯楽性」を放棄しているとは言えない。現代文学を「娯楽性」ぬきに語れるとは、誰も思っていないだろう。

週刊朝日  2013年10月11日号