KDDIの設立や倒産した日本航空再建に手腕を振るってきた稲盛和夫氏。仕事でより良い成果を上げる秘訣を明かした。

問:稲盛会長は京セラ、KDDI、JALなどで多くの部下をお持ちですが、どういう人が仕事で良い成果を上げるとお考えですか?

答:私が考えた人生・仕事の方程式というものがあります。人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力、というものです。大事なのは、その人が持つ、人生や仕事に対する「考え方」と「熱意」であり、「能力」は3番目と考えています。

問:「能力」が3番目とは?

答:ここで言う「能力」とは、知能、学力や運動神経などです。多分に先天的なものがあり、個人の意志が及ぶものではありません。能力を点数で表せば、「0 点」から「100点」まであります。

問:次に「考え方」とは?

答:例えば、世を拗(す)ね、人を恨み、斜に構えたものの見方をする人の「考え方」はマイナスになります。一方、壁にぶつかっても素直に人の意見を吸収し、苦労も厭わず、仲間や他人に善かれと願い、明るく真面目に努力し続ける人の「考え方」はプラスになっていく。つまり、「考え方」次第でその人の人生は大きく変わっていくと思うのです。だから「考え方」には、「マイナス100点」から「プラス100点」まであるのです。

問:「熱意」とは?

答:「熱意」は「努力」と言い換えることができます。これも全くやる気のない「0点」から、仕事に対し、燃えるような情熱を抱き、懸命に努力する「100点」まであります。

問:「考え方」が一番重要なのですか?

答:はい。例えば、ベンチャー経営者、社長になるような人は大抵、人並み外れた能力、仕事への熱意を持っています。立身出世する人の多くは、アグレッシブで同時にエゴも人一倍強い。エゴの最たるものは物欲、名誉欲、色欲ですが、それらを制御せず、「俺が俺が」「もっと儲けたい」などとエゴを肥大化させると、人心が離れたり、儲け話に引っかかったりとつまずいていく。人はエゴで成功もしますが、破滅もするのです。

問:どのような「考え方」をすればいいのでしょうか?

答:己というエゴを常に制御し、いつも正しい考え方、道理に合った決断ができるよう心を整える努力を怠らないことです。リーダーは己を愛することが一番になっては駄目で、自己犠牲を払ってでも組織のために貢献しようとすべきです。

問:この方程式の具体例を挙げてもらえますか?

答:学力が高く優秀で、能力が90点の社員がいるとします。彼は、自らの能力を過信し、仕事をなめて、努力を怠っているので、熱意が40点、考え方も50点しかありません。すると、仕事の結果は掛け算となるので、18万点となります。一方、能力は50点しかない社員が、能力で劣る分、仕事に情熱を持ち、人の何倍もの努力を続けたとしたら、熱意が90点となります。さらに前向きで思いやりがあり、考え方が80点であれば、結果は倍の36万点にもなります。平凡な能力しか持たない社員でも、すばらしい考え方を持ち、懸命に努力すれば、信じられないほどの成果を生み出せるのです。

週刊朝日  2013年9月27日号