東京選挙区(改選数5)で公示直前に候補者を一本化し、混乱に陥った民主党。野党になっても醜態を演じ続けているが、その主役は菅直人元首相(66)だ。

 公認を外された現職の大河原雅子氏(60)の応援にまわり、細野豪志幹事長(41)から「菅氏は立場を踏まえて行動してほしい。しばらく黙っていてほしい」(7月5日)と警告を受けるありさま。

 これを機に世代交代を進めたい細野幹事長の思惑も見え隠れするが、当の菅氏は昔の部下の話など聞いてられるかと、9日には東京・JR立川駅前で大河原氏の街頭演説に堂々と登場。「原発を進めようとしている安倍さんに対して、NOと言って活動してきたのが大河原さんです!」と、ビール箱の上から猛アピール。

 ならばこの熱弁の勢いで、一本化を強行した執行部への怒りも訴えてもらおうと、本誌が「細野さんが……」と詰め寄ったが、「原発以外の質問はお受けできません」とシャットアウト。大勢のSPに囲まれて車に乗り込んでしまった。

 一連の騒動について、民主党職員に聞くと、こんな答えが返ってきた。「年明けから一本化の話はあったが、菅さんが『放り込むのはまだ早い。風向きが変わることもあるし、様子を見るべきだ』と主張した。調整が遅れたのは菅さんの責任でもあるんです」。

 菅氏は今回、“ライフワーク”である脱原発を前面に打ち出し、「原発ゼロ」を訴える候補者の応援で全国を飛び回っている。6日には静岡県の浜岡原発近くで「浜岡原発も一刻も早く廃炉に向かうべきだ」と気勢を上げ、10日も新潟県の柏崎刈羽原発前に出没し、「事故を起こした原発は核兵器に相当する」と訴えた。

 ただ、党関係者は渋い表情でこうこぼす。「党内には、『菅さんが来たら票が離れる』と心配する向きもある。とはいえ、応援に行くと言っているのに断るのも……」。

 
 公示直前の3日には、ブログに「再稼働推進の一部労働組合に気兼ねをして、原発ゼロを鮮明に出す候補者は少ない」と書き込み、労組に配慮した一部陣営が菅氏の応援を拒否した、との報道も流れた。いったい誰の味方なのか、わからない存在になっている。

 その菅氏は、昨年12月の衆院選で小選挙区で敗北。6月の都議選でも、選対本部長を務めた地元武蔵野市の現職が、自民党新人に敗れ、足元に火がついているだけに、存在感を示そうと躍起になっているとみる向きもある。

 だが、お得意の「脱原発」も、どこまで有権者の票を集められるかは微妙なところだ。東京選挙区には無所属新人の山本太郎氏(38)がいるからだ。11日のJR王子駅前での街頭演説では、菅氏と同じくビール箱の上から、我こそが「元祖・脱原発」とばかりにこう叫んだ。

「国会議員もみな空気を読んで、本気で原発に反対しようとしていない」。さらに、自らの円形脱毛症らしき痕を指さしてこう言った。「原発のことよーく考えてたらね、はげちゃったんです。でも今のこの国の事態を考えたら、国会議員のほとんどがはげていてもおかしくないんですよ!」

 菅氏の髪の毛はというといまだ健在。それはともかく、アピール合戦は明らかに菅氏が劣勢だった。

週刊朝日 2013年7月26日号