書店に行くのは大好きなのですが、時々いやになる時期があります。
 一番いやだったのは、双葉社に入社してすぐの頃でしたね。
 それまではどの本も自分の友達だった。こちらが興味を持てば、知らない世界に導いてくれるガイドだった。
 ところが、会社に入るとそうはいかなくなった。
 入社当時は、双葉社の書籍はそれほど売れる本が出ていなかった。他社ではこれだけ売れている本が出ているのに、なんで自分の会社の本でそういうものがないんだろう。
 他の出版社のベストセラーを見ると、悔しくなってしまう。書店に並んでいる本の大半は自分にとってはライバルなわけですね。
 本作りに携わりたくて出版社に行きたいというのは、中学の頃からの夢だったのに、なんとか入社してみたら、書店でそんな思いを持つことになろうとは想像だにしていませんでした。
 特にその時期は、まだ編集部にいなかったので本作りが直接出来るわけではない。しかも入社したばかりで経験もなければ自信もない。苛立ちや焦りばかりが先に立ってしまったのでしょうね。
 編集部に異動になり、年齢を重ねて、双葉社の業界での位置、その中での自分の仕事のやり方などがなんとなく分かってくると、若い頃の焦りは減りました。

 でも、最近は別の意味で複雑な心境になります。
 本屋に行くと、仕事の資料として興味のある本、読まなければならない本もたくさんあります。まだ読んだことのないけど、読んだ方がいいだろうなという作家もいっぱいいる。
 もちろん家にも未読の本がそれこそ山脈のように積み上がっている。
 新しい本を買う前に、それもいつ読むんだよという気持ちになる。
 日本作家もこのところの売れ筋の作家は殆ど未読です。
 伊坂幸太郎も一冊しか読んでないし、角田光代、池井戸潤、ミステリだと最近売れ筋の道尾秀介、誉田哲也、貴志祐介なんかも一冊も読んでない。
「まずいなあ」と思う反面、新しい作家にチャレンジするのもおっくうになるところがあります。
「ああ、もう新しい作家はいい。江戸川乱歩や山田風太郎や都筑道夫や隆慶一郎とか、昔好きだった作家だけを読みなおしてれば幸せじゃないか」なんて気分になることもある。
 そんな自分を肯定する自分がいる。
 若い頃に聞いていた曲を聴き直し、若い頃に観ていた映画を見直し、若い頃に読んでいた本を読み直す。50も過ぎたんだし、それでいいじゃないか。
 年齢にせいにしてしまおうというわけです。

 ところが、世の中には元気な先輩がいるんですね。
 大ベテランのシナリオ・ライター、辻真先さんはツイッターでフォロワーに最近の面白いアニメを教えてくれと語りかけ情報をもらい、新作アニメを積極的に見ている。ミステリやマンガの新刊も読みこなしている。
 劇画原作の大御所、小池一夫氏は、最近、アニメの『魔法少女まどかマギカ』にはまってしまい、脚本の虚淵玄さんとキャラクター論の対談をするまでになっている。
 辻さんも小池さんもツイッターでの発言でその動向を知ったのですが、お二人ともとうに70歳を越えられているのに、その感性の若さ、パワフルな行動力に、圧倒されてしまいます。
 そもそも、そのお年で積極的にツイッターを利用されていることも驚きなのですが。

 こういう大先輩を見ると、まだまだ、「歳だから」なんて言うのは早すぎると思わなければなりませんね。