日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「日本発、食物アレルギーの最新研究」について「医見」します。
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先週、慈恵会医科大学の浦島充佳教授らのグループから、赤ちゃんのアレルギーに関する新たな研究結果が発表されました(※1)。新生児の赤ちゃんに与えるミルクを、タンパク質を含まないアミノ酸ミルクにすることで、食物アレルギーの発症を抑えられたというものです。
この研究では、両親や兄弟の少なくとも一人が喘息(ぜんそく)などのアレルギー性疾患にかかったことがあるような、アレルギーのリスクの高い赤ちゃん312人が集められました。この赤ちゃんたちをランダムに2グループに分け、それぞれ少し違う栄養方法で育ててもらったのです。
一方のグループでは母乳をメインに、母乳が足りないときは牛乳のタンパク質を含まないミルクを飲ませてもらいました。1日150ml以上のミルクを飲む日が3日続いたときは、通常のタイプのミルクに切り替えましたが、生後3日目まではこのグループの全員が牛乳タンパク質を摂取しないようにしました。そしてもう片方では、赤ちゃんが生まれた初日から、通常のミルクを1日5ml以上飲ませてもらい、生後1カ月を過ぎた後は1日40mlに増やして、5カ月頃まで続けてもらいました。
すると、2歳時点での血液検査で牛乳に多少なりアレルギー反応を示した割合は、最初に牛乳のタンパク質を避けたグループでは16.8%、そうでないグループでは32.2%でした。また、2歳時に何らかの食物アレルギーを持っている割合は、それぞれ2.6%と13.2%でした。いずれも、生後最初の3日間に牛乳タンパク質を避けたグループで良い結果となったのです。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。今回の論文の中では、腸内細菌がまだ育っていない新生児の腸にたくさんの牛乳タンパク質が入ってくると、それが炎症を引き起こし、食物アレルギーのリスクを高めるのではないかという仮説が立てられています。