そしてもう一つ。韓ミュの特徴に一人の俳優が何役も演じる『マルチマン』の存在もある。マルチマンを演じる俳優の熱演を見るのも、楽しい。
「私がプロデュースした作品でも『あなたの初恋探します』では24役を一人が演じますし、『最終陳述』でもウィリアム・シェイクスピア役の俳優がコペルニクスやプトレマイオスなど歴史上の人物を何役も演じます。マルチマンは韓国ミュージカルでは多用されますが、割と若いクリエイターたちが制作しているので人件費の削減!といった現実問題も大きいと思います。ソウルにはテハンノ(大学路)と呼ばれる、東京で言えば下北沢のような町があって、そこには200館近い中小の劇場があり、毎日ミュージカルが上演されているんです」
その『最終陳述』でマルチマンを演じた俳優は日本と韓国、両方のミュージカルの舞台に立って活躍していて、日韓でのミュージカル交流も実はとっくに盛んだ。9月から10月の2カ月に渡ってはテハンノで大小様々なミュージカルを上演するイベントもあり、日本からツアーを組んで行くファンも大勢いるとか。なんだ? 韓ミュ・ブーム、実は既に始まっているのかもしれない? 長年、欧米のミュージカルを見てきた音楽評論家の湯川れい子さんも「起伏に富んだストーリー展開、音楽もドラマチックだったり、美しいバラードもあり、歌を堪能できる。韓国ミュージカルに注目しています」と語る。
ちなみに、プロデューサーの後藤さんが一番おススメの韓ミュは?というと「『メイビー・ハッピーエンド』です! 甘酸っぱいような、何とも言えない気持ちを味あわせてくれて、美しく悲しく光が差してくる! 近未来を舞台に、捨てられたヘルパー・ロボットが愛という気持ちを知って行く物語」と、推薦する。設定からしてそれは面白そう! 韓ミュ、見てみたくなりませんか?(取材・文/和田静香)
●和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。