以降の詳細は割愛するが、7社以上に起用された男性タレント48名のうち15名がお笑いタレントという結果になった。

 一方、10年前はどうか。同じく7社以上に起用されたのは26名と少なく、最多は木村拓哉の11社だった。タレント1人あたりのCM露出を調整するために事務所側が意図的に契約社数を制限したりという事情もあったかもしれない。いずれにしろその中で上位に食い込んだお笑いタレントは世界のナベアツ(現・桂三度)と矢作兼の2名のみ。割合的に見ても2018年度の1/4程度にとどまっており、近年お笑いタレントのCM出演が増加傾向にあるのは間違いない。これは何も“芸人が出演するとインパクトが強い”とか“演出の制約が少なくてコスパがいい”といった表面的な理由だけではないだろう。

 2008年度のCM好感度上位にランクインした作品の一例を挙げると、前年に「白戸家」シリーズがスタートした『SoftBank』、「25年後の磯野家」を描いた江崎グリコの『OTONA GLICO』、妻夫木聡のコミカルな演技が人気を博した東京ガスの『ガス・パッ・チョ!』といった、キャラクターやシーンが設定されたフィクション型のシリーズCMが目立つ。もちろん今も携帯キャリア各社に代表されるシリーズCMは好感度上位の常連だが、千鳥が楽屋で携帯を手に会話をする『スマートニュース』や、ヒロミと長嶋一茂が自然体で商品を飲む姿を映した『金麦ゴールド・ラガー』のように、“日常”“ありのまま”を切り取ったCMがランキング上位に飛び込んでくるようになった。

 おそらく10年前はまだ、CMとは「テレビの中の世界」のものであり、視聴者が住む世界とは異なる場所の出来事として受け止められていたと思われる。だから人気俳優が登場するドラマチックなストーリーに釘付けになったり、美しい女優をぜいたくに起用したブランドに憧れたりと、CMは消費者のライフスタイルや価値観をリードするものだった。しかしこの10年間で、消費者が得られる情報量が爆発的に増え、また一人ひとりが発信者になり得る時代に変わったことで、メディアと一般生活者との距離感が大きく変化した。情報の正確さはさておき、さまざまな情報源があり、疑似体験を容易に得られるようになった現代では、テレビの中だけが特別扱いされることも減った。テレビの内容をそのまま信じることがまるで騙されているかのように言われることすらあり、CMはなかなか信じてもらえない時代になってしまった。実際はテレビCMを放送するためには事前に厳しい考査を通らなければならないので、嘘はつけないのだが。

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求められる“自分の言葉を話す”タレント