そこで求められているのが、水道事業の広域化だ。水道の利用人数を多くすることで経営を効率化させ、値段の変動を抑えることが期待できるからだ。しかし、日本では上水道の経営主体だけで2000以上あり、水道事業の広域化は進んでいない。なぜか。



「水道料金が安い事業者は、高い事業者と合併すると一時的に料金が上昇します。水道料金の値上げは地域住民の生活に直結しますので、議会は値上げに反対します。誰もが『今のままではいけない』と思っていますが、有効な対策ができていないのが日本の水道事業の現状です」(前出の田中教授)

 昨年12月には水道法が改正され、自治体が施設を所有したまま日常業務の運営を民間に任せる「コンセッション方式」が導入された。しかし、「民間企業が水道事業に参入すると、株主に配当するために水道料金が上がる」などの批判も相次いだ。

 たしかに、パリやベルリンなど、民営化後に料金が高騰したり、水質が悪化したりしたことで水道事業が再公営化された事例はある。一方、フランスでは再公営化の動きと同時にコンセッション方式への以降は現在でも進んでおり、フランス生物多様性機構の報告書では、水道事業ではコンセッション方式に移行した事業と再公営化した事業はそれぞれ68事業で同数だった。

 もちろん、民営化すればただちに水道事業が効率化されるというわけではない。しかし、民営化を拒む側には別の事情もある。民間の水道事業関係者は言う。

「水道事業の案件は行政から高い価格で受注できるので、地元の企業やそこで働く公務員にとっては『おいしい仕事』。もちろん、そういった人たちは政治家にも通じている。電力やガスと違って水道事業の広域化が進まないのは、『既得権益』が強力だからという側面もある」

 今年1月には、山梨県笛吹市で、市職員が工事発注の価格情報を事前にもらしたなどとして逮捕された。背景には、同市内の水道事業者団体で派閥抗争があったという。こういった水道事業にからむ汚職疑惑は、この1年だけでも東京、大阪、岩手、新潟などでも起きている。前出の田中教授は、日本の水道事業についてこう指摘する。

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公営か民営かという議論に意味はない