川崎市多摩区の路上で、私立カリタス小学校のスクールバスを待つ児童らが男に刃物で襲われ、19人が死傷した凄惨な事件。自殺した岩崎隆一容疑者(51)を犯行に突き動かしたものは何だったのか。どうして無関係の幼い子どもたちが狙われたのか。
『無差別殺人の精神分析』や『拡大自殺』などの著書がある、精神科医・片田珠美さんに聞いた。
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なぜカリタス小の子どもたちを狙ったか。これには3つの理由があると考えています。そのうち2つは、2001年に起きた大阪教育大付属池田小学校事件の宅間守・元死刑囚と共通します。まず身体が小さく力の弱い小学生を狙うことで、より多くの被害者が出るだろうということ。もう一つは、宅間・元死刑囚が池田小の子どもたちをエリートの卵と認識し、羨望と敵意、それになれない自分へのコンプレックスを持っていたように、ある種の復讐願望に突き動かされたということ。
そして、3つ目の要因として、岩崎容疑者の家庭事情が大きく影響していただろうということです。報道によると幼いころに両親が離婚した後、伯父夫婦に引き取られ、よく叱られたり外に出されたりするなど、厳しく育てられたと幼馴染が証言しています。伯父夫婦の実子であるいとこがカリタス小に通っていたという報道もありました。
伯父夫婦に育ててもらった恩があったのかはわかりませんが、怒りなどの感情を直接向けるわけにはいかなかったのでしょう。だから方向転換して、いとこが通っていたカリタスの子どもたちに向けた可能性は高いと思います。
このような怒りの方向転換を精神分析では「置き換え」と呼びますが、実はこれ自体は、多くの人がやっていることなのです。いま問題になっている「カスタマーハラスメント」もその一つ。例えば、上司や妻に腹が立っていたとしても、直接は出せずに積もり積もっていくと、それが方向転換して飲食業やコンビニの店員に向けられるわけです。