「やりたいことができれば将来が不安でもかまわない」とか「好きな人と一緒になれれば貧乏でもかまわない」ことを実践するだけでなく、そのような生き方をよしとする若者は、徐々に減少していく。とにかく卒業時に正社員にならなければ人生大変なことになる、若いうちに結婚していなければ一生独身ではないかという不安が若い人の間に広がる。その結果、誕生したのが「就活」そして私が名付けた「婚活」なのだ。
就職や結婚が楽にできた時代に若者だった人間から見ると、今の就活や婚活状況は滑稽に見える。例えば、石田衣良さんの『シューカツ!』(文春文庫)を読むとまるでサークル活動のように、仲間で企業の採用や面接情報を交換しながら就職試験に臨む学生が描かれている。それは決して小説の中の出来事ではない。学生に聞くと、人気企業の説明会の予約をとるために家族全員で申し込み開始時間に同時にサイトにアクセスし「父親のがつながった!」と喜んでいた学生がいたり、役所採用のために予備校の模擬面接で練習し見事合格したというツワモノがいたり、本当にそこまでするものなのかと親の世代は驚くだろう。
婚活もしかりである。辻村深月さんの『傲慢と善良』(朝日新聞出版)では、地方出身の平凡な女性が、自分にとって条件が少しでもよい相手を選ぼうと婚活に一生懸命になる姿が描かれる。そう、なにも取り柄がないからこそ、恋愛感情を後回しにして婚活を頑張らなければならないのだ、たとえそこに恋愛感情があったとしても気づかないふりをして――。
私も婚活中や婚活して結婚した人たちにインタビュー調査をする中で、いろいろな例に巡り会った。「パーティに来る人でなかなかいい人はいないのよね」と言いながら、しっかりひとりの相手に狙いを定めて、アプローチする女性もいた。100回以上お見合いで断られ続け最後の最後に結婚にこぎつけた男性に相手のどこがよかったかと尋ねたら、「自分を選んでくれたこと」と答えていた。みんな必死なのだ。