■恋愛結婚の正体

 結婚も同じである。当時は、会社への就職だけでなく、伝統的な結婚も「格好悪い」という風潮があった。昭和のテレビドラマでは、結婚をゴールとして二人が徐々に親しくなっていくというストーリーが主流だったのが、平成に入ってからは、恋愛自体を楽しみかつ悩む若者たちが描かれた。視聴率30%を超えた『男女7人夏物語』(1986年)は昭和末期だが、平成に入ってから、柴門ふみ原作の『東京ラブストーリー』(1991年)や『ロングバケーション』(1996年)などが若者の間で人気を集め、トレンディ・ドラマの全盛期となった。当時の風潮としては、結婚せずに好きな相手と性関係を含んだ男女交際を楽しむことが「格好いい」ことであって、将来の生活を考えてとか、見合いで好きでもない人と結婚することは何か後ろめたい感じがしたものである。未婚であっても、相手が既婚者であっても、「愛」に生きることが素晴らしいという意識が広まっていた。

 これも余談だが、学生に当時のドラマを見せて、「当時若者だった親の感想を聞いてくる」という課題を出したことがある。多くの親は見ていたが、ドラマにでてくるような恋愛はしていないというものが多かった。『ロングバケーション』の主人公に因んで、自分に「みなみ」という名前を付けられたという女子学生も複数いて、結婚を脇に置いて「真実の愛」を求める恋愛をすることが当時の若い人の「夢」だったようだ。

 つまり、1990年代前半は、ドラマティックな恋愛を夢見ても、多くの人は身近な人と結婚し、「主に夫は仕事、妻は家事」というドラマから見れば平凡な結婚生活を送ることになったのだ。

 平成時代が進むにつれて、「夢」、自分のやりたいことを成就させて成功するといったフリーターの夢や、素敵な人が現れてドラマのような恋愛をするといった夢が、実現不可能な「夢」であったことが徐々に明らかになってくる。バブル崩壊後の不況によって、フリーターは「正社員になりたくてもなれない人」となり、未婚化の進展により、独身者は恋愛に生きる人というよりも、「結婚相手が見つからない人」という位置づけがなされるようになる。

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婚活も就活も不安が産みの母