樹木希林さんの本が売れている。
昨年暮れに出た『一切なりゆき~樹木希林のことば~』(文春新書)は今年最大のベストセラーになりそうな勢いだし『樹木希林 120の遺言 死ぬときぐらい好きにさせてよ』(宝島社)『樹木希林さんからの手紙』(主婦の友社)、『いつも心に樹木希林 ひとりの役者の咲きざま、死にざま』(キネマ旬報ムック)、『心底惚れた 樹木希林の異性懇談』(中央公論新社)、そしてDVDブックの『樹木希林 ある日の遺言 食べるのも日常 死ぬのも日常』(小学館)なども軒並み好調だ。
特筆すべきは、彼女の残した「言葉」が注目されていることだろう。そのもてはやされ方は芸能人というより、書家で詩人だった相田みつをなどに近い。もちろん、樹木さんの言動は生前から面白がられてきたが、死後これほどのブームになるとは誰も予想しなかったのではないか。
その謎を解くカギは、特異な存在感にある。彼女は死んでからではなく、生きながら伝説と化した人なのだ。こういう人はめったにいないが、存命だとビートたけしがいる。彼を伝説にしたのは、笑いの才能はもとより、フライデー襲撃事件やバイク事故といった負の出来事だ。タレント生命、さらには生命そのものを失いかねない危機を乗り越え、むしろプラスに転じさせたかのような姿に大衆はカリスマを感じるのである。
樹木さんの場合も、伝説化した理由は芝居の才能だけではない。たしかに、アラサーでの老け役(ドラマ『寺内貫太郎一家』)も神業と称えられた方言づかい(ドラマ『はね駒』)も見事なものだったが、じつはこの人にもふたつの負の出来事がある。それを発言とともに、振り返るとしよう。
「下駄屋のへーさんのひとり娘・ともこが、3月に子供を生みます。父親は、久世さんなんです」
79年1月、ドラマ『ムー一族』の打ち上げパーティーで衝撃を与えた発言だ。これにより、業界きっての敏腕プロデューサー・久世光彦が「下駄屋のともこ」役の若手女優と不倫をしていた事実が明るみに。樹木さんはふたりを応援するつもりだったと言うが、世間は告発のための暴露として受け取った。ことによっては、仕事を干されてもおかしくない状況が出現したわけだ。