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さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第73回は日本の高田馬場駅から。
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日本は駅や繁華街に看板が多い国だ。その前でしばし立ち止まることがある。
東京の高田馬場駅近くのモンゴル料理店に行った。入ってわかったのは、モンゴルではなく、中国の内モンゴル自治区の料理だった。テーブルの大半は中国人で埋まっていた。若者が多い。
その店を出ると、地下に中国の火鍋店があった。オープンして日が浅いようで、入り口に花輪が飾られていた。その店の看板を眺めながら、立ち止まることになる。
「日本語がない」
看板のどこを探しても、中国漢字、それも大陸で使われている簡体字だけだった。
そういえばモンゴル料理店の看板にも、日本語がなかった気がする。店のメニューには日本語があったが。
中国人の知人はこう説明してくれた。
「人手不足。店を開こうとしても、日本人のスタッフが集まらない。勢い、中国人留学生頼みになる。しかし彼らは日本人客の注文をしっかり聞くことができるほどの日本語力がない。だから客は中国人限定。日本人が入ってくると困る。無理という意味で、看板から日本語を外したんです」