背景はただの白壁。モデルたちはカメラを睨みつけていたり、あえて口元をゆがませたりしたものもある。クリックすると、正面・サイド・バックから撮った写真とともに「ブサイクエピソード」なるものも紹介されている。たとえば、

<ファミレスでウェイターをしていたら、「何でそんな顔なんだ」というクレームが入りました。表情ではなく顔の作りです>
<飲み屋でイケメンのスタッフと働いている時に、目の前のお客さんが 遠くにいるイケメンにばかりオーダーをする>

 といった具合だ。もはや、髪型とは一切関係がない。いったいどこの誰が、こんなサイトを作ったのか。

 取材を申し込むと、待ち合わせ場所に一人の男性が現れた。キロコさん、30歳。学生時代に味わった美容室での苦い体験が、今も頭にこびりついているという。

「高校生のころ、当時大人気だったブラッド・ピットに憧れて、オシャレな表参道の美容室で坊主にしてもらったんです。そしたら、自分でも驚くほどブラピとのギャップがすごかった。美容師さんは『似合っていますよ』なんて言ってくれましたが、どう見てもただの坊主だったんです」

 同じ髪型にしても、憧れの人にはなれない。そんな現実を10代にして突きつけられてしまう。それから時は流れ、ブサヘアを作ろうと決めたのは、大人になって交わした友人との会話がきっかけだった。

「ヘアカタログに載っているモデルは美男美女ばかりで注文しづらいし、自分とかけ離れているからイメージもしづらい」

 そんな話で盛り上がり、“美男美女以外”に寄り添ったカタログを作ろうと決意。浮かんだサイト名が「ブサヘア」だった。

 だが、肝心のモデル探しに苦戦した。自分たちが“美男美女以外”だというつもりでいても、サイト名を伝えれば「あなたはブサイク」と言っているとも受け止められかねない。

「友達やそのまた友達とか、50人くらいにオファーしましたが、断わられることも多かったです。特に女性に依頼するのは難しかった。サイトコンセプトや目的をうまく伝えられるかが不安でした」

 つてを頼りに、男女15人が“ブサヘアモデル”としてデビューした。だが、そのなかに“一般人”はごくわずか。ほとんどが芸人や役者を目指す、いわば芸能人のたまごだ。まだ日の目を見ない彼らが、「これで注目されれば」という期待もあった。

 実際、カタログに登場したことでレギュラー番組を持つようになった女性もいる。 前出の土佐さんだ。カタログのモデルとなった土佐さんに目を付けたディレクターが声をかけ、オーディションに参加。見事勝ち残り、今、ネットテレビ局「AbemaTV」で放送中の「おぎやはぎのブステレビ」に出演している。

 だが、カタログ掲載前は役者を目指す一人の女性。モデルの打診を受けた当時のことを笑みを浮かべてこう振り返る。

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