結果、ラセターによると、「協働と創造性を促進する建物」ができ上がることになりました。すぐれたものをつくりたいのなら、「働く環境の一部もチームの一部である」を理解し、実践することが必要なのです。

 IT企業というと、一人ひとりが個室に入り、黙々と仕事をするイメージを持っている人もいますが、現実には、たとえばグーグルのように個室を持たず、チームのメンバーが1つの部屋に入って仕事を行っています。グーグルの「10の黄金律」と呼ばれるルールの1つに「一カ所に詰め込め」というものがあります。

<グーグルのほとんどのプロジェクトはチームで行われる。チームにはコミュニケーションが必要だ。コミュニケーションを良くする最適な方法は、じかに話せる距離にメンバーを置くことである。実際グーグルの社員は「大部屋」で働く。だから相談したいときにはすぐに声をかけられるし、電話待ちやメールの遅れはない。知的な同僚の隣にいることは、信じられないほど効果的な就業トレーニングになる>(『グーグル10の黄金律』、桑原晃弥著、PHP新書)

 物理的に距離が離れると、心理的にも壁ができやすくなります。反対にみんなが同じ部屋で仕事をすれば、小さなトラブルの芽から、お互いの表情や体調まで理解できて、仕事は格段に速くなります。ちょっとしたおしゃべりから意外な創造性が生まれるという醍醐味も味わうことができるのです。

 イノベーションが生まれない理由を「社員のせい」にする経営者は少なくありません。しかし、実際には社員に「アイデアがない」のではなく、会社に「アイデアを生み、促進する環境」が欠けており、「アイデアを拾い育てる仕組み」が欠けているためにせっかくのアイデアの卵が消え去ることがほとんどなのです。イノベーションを望むなら、ジョブズがそうであったように、人と人が出会い、刺激し合う、そんなオフィス環境をつくることも大切なのです。