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 8月2日、アップルがアメリカ史上初めて時価総額1兆ドルを突破した。

 アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは、「世界を変えるほどの製品をつくる」ビジョナリーやすぐれたプレゼンターとして知られるカリスマだが、実は「素晴らしい会社」をつくることを誰よりも重視し、独自の組織論にもとづいた運営を実践していたという。その1つが、「職場の環境も、チームの一部である」という考え方だ。

『スティーブ・ジョブズ 世界を興奮させる組織のつくり方』の著者で、ジョブズの組織哲学に詳しい桑原晃弥氏に話を聞いた。

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 数カ月前、とてもイノベーティブであることで有名な日本企業の本社を取材させていただいたときのことです。そこには電話が1つも置かれていないとても静かなワークスペースがある一方で、社員が自由に集まって会議や会話ができるとても広いスペースが用意されていることに驚きました。

 そのスペースは食事をすることもできれば、午睡をすることもできますし、パソコンとプロジェクターを使って会議もできれば、1人で仕事をすることもできる、まさに「何でもあり」のスペースでした。

 なぜわざわざそんなスペースが必要なのでしょうか? 理由は、いろいろな部署の人、時には他社の人も自由に集まり会話することで、新しい何かを生み出すことができるからです。同社の仕事のほとんどはメールやLINEで進められますが、それだけではダメで、いろんな人が集まり、会話を交わすことで得られるものがたくさんあるため、そのきっかけづくりの場所があればあるほどイノベーションは生まれやすい、というのです。

 ワーク環境についてのこのような思想は、現在でこそ、多くの企業で採用されるようになりましたが、その源流は、アップルの創業者スティーブ・ジョブズの組織哲学にあると言えます。

 ジョブズの信念の1つは、すぐれた製品をつくるためには、すぐれた人を集め、彼らの能力を限界まで引き出すことが必要だ、というものですが、ジョブズは同時に「働く環境」にもしっかりと気を配らない限り本当の意味でのすごいアイデアも、すごい製品も生まれないと考えていました。

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ジョブズは職場の環境についてこう考えていた…