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濃紺のスーツに身を包み、足元はピンヒール。長い髪を風になびかせる若い女性が、父親ほども年の離れたいかつい漁師たちに激しい言葉で指示を出す。9月14日に放送された「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」、通称「金スマ」での1シーンだ。女性の名は坪内知佳。荒くれ漁師たちをたばねる彼女の、驚きの「前進力」とは――。
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坪内知佳は、山口県萩市の沖合約8キロにある大島(通称・萩大島)に拠点を置く漁師集団「萩大島船団丸」の代表を務める。彼女の著書『荒くれ漁師をたばねる力』は、漁業とは無縁だったシングルマザーが、漁獲量の減少にあえぐ田舎の小さな漁師集団を「ある方法」で救った、という話題性たっぷりのストーリーだ。
「金スマ」では、人気お笑いコンビANZEN漫才のみやぞんとあらぽんが実際に萩大島を訪れ、漁師に混じって漁や鮮魚の箱詰めを体験。美しい海をバックに和やかなロケが進行……と思いきや、若き女性リーダーである坪内とその船団長である漁師・長岡秀洋が口論をはじめ、みやぞんらが凍りつくという場面が放送された。
文字通り「荒くれ漁師」を率いる強気な女性として紹介されていた坪内。その稀有なストーリーもさることながら、実は、小さな漁港の漁師集団にすぎなかった萩大島船団丸を、中国・四国地方で初の「六次産業化法認定事業者」にすることに成功した立役者だ。「六次産業化」とは、漁業や農業などの一次産業が、加工から流通、販売までを一貫して手掛けること。坪内は、自らの足で顧客を開拓し、流通ルートも切り開くなど、文字通り漁業の六次産業化の旗振り役を担ってきた。その並外れた「前進力」に一次産業の未来を見出す人も少なくない。坪内の元には、日本全国の一次産業従事者や行政関係者をはじめ、全国からの視察が詰めかけているという。
なぜ、漁業とは無縁の素人でありながら、坪内はこれほどの成果をあげることができたのだろうか。漁師たちと怒鳴り合い、時には取っ組み合いをしてまでも前進し続けることができた理由のひとつは、坪内が胸に抱く一つの「確信」にある。