部屋に戻ってドアを閉めようとすると、次男は自分の指をドアの隙間に挟んできました。「うつっちゃうからダメ」と言って、その小さな指をひじで押し戻しました。「ママは病気なんだよ」とパパから聞いた長男は、ドア越しに「キスしていいよ」とせがみました。風邪をひいた子どもに母親がキスをする、ユーチューブの動画を覚えていたのです。
新型コロナにかかると、目の前で母を求める我が子に、キスどころか触ることもできないのです。私は申し訳ない気持ちで、ドアを内側から押さえました。
みなさんは「エルボーバンプ」を知っていますか。握手やハグの代わりに、ひじをコツンと突き合わせるあいさつです。長男に教え、部屋から出るときに繰り返しました。数日たつと長男は「今日はママとエルボーバンプしたから大丈夫」と言うようになりましたが、次男は意味がわからず、泣きっぱなしでした。
●子どものウンチのにおいがわからない後遺症
PCR検査で陽性が確認されても、「ベッドがいっぱい」との理由で最初は入院できず、自宅での隔離生活は10日続きました。 入院してからも、感染を防ぐため、誰とも面会できませんでした。4人部屋だったので、家族や友人と電話で話すこともできず、寂しかったです。味覚をなくしたので食事もおいしくありませんでした。入院3日目に突然、おみそ汁の味がわかりました。冷たくなっていましたが、本当においしかったです。 入院の2週間後に退院して家に帰ったあとも、次男は私の姿が見えなくなると、パニックになったように泣きました。長男は「チック症」で目をパチパチするようになっていました。医者から「ママが突然いなくなった不安の表れ」と言われ、私は「もう大丈夫だよ」と何度も抱きしめました。
実は、退院から3カ月以上過ぎても、後遺症が続いています。子どものウンチのにおいがわからないのです。次男が泣いている理由がわからず、オムツからはみ出たウンチを見てびっくりしました。でも、いつか完治すると信じ、毎日を楽しく過ごそうと思っています。 みなさんも不安を抱えながら生活していると思います。一日も早く、安心して過ごせる日がくることを、祈っています。
(朝日新聞国際報道部・今村優莉)
※月刊ジュニアエラ 2020年9月号より