石戸さんが運営するCANVASでは、未就学児や小学生に向けて定期的にプログラミングなどのワークショップを開いている。その際に意識づけているのは「感じる」「考える」「作る」「伝える」という四つの要素だ。心や頭で感じたものを形にして発表する。STEAM教育を通して、文科省が重視する思考力、判断力、表現力に加え、問題解決能力やコミュニケーション能力といった「21世紀型スキル」を育むねらいもある。石戸さんはこのプロセスを繰り返すなかで、新しい発想が出てきやすいことを実感している。
■新しい価値を生み出し広く評価されたい
「子どもたちは予想以上に、プログラミングと身の回りの生活を結びつけています」と石戸さんは感心している。全国小中学生プログラミング大会では過去に、社会問題に切り込んだ作品が受賞。「安全で渋滞のない交差点や信号機をつくることにつながれば」という思いで制作したという、渋谷スクランブル交差点の混雑状況をコンピューター上でシミュレーションした作品や、けがや病気で会話や文字を書くのが難しい人に便利な「会話おたすけ音声ロボット」などが代表例だ。
石戸さんによれば、今の子どもたちはスマホやソーシャルメディアに慣れ親しんだソーシャルネイティブ世代で、情報を得る範囲が広い分、社会課題にも敏感だという。自分が手がけたものがソーシャルメディアを通して拡散するため、社会に新しい価値を生み出すものを作って広く評価されたいという思いも強い。
石戸さんは「STEAM教育は『変化に対応する力』を養うもの」と話す。
「技術革新が加速し続ける第4次産業革命に適応するには、社会を支える科学、技術、工学、芸術、数学という基礎教養が不可欠です。答えが複数ある時代においては主体的に学び続けることも重要で、親も一緒にデジタルの学びを楽しむことが大切です」
(菅野浩二)
〇石戸奈々子(いしど・ななこ)
NPO法人CANVAS 理事長。東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボの客員研究員を経て、2002年に子どもたちの創造性や表現力を育む場としてNPO法人CANVASを設立。慶應義塾大学教授、同大学大学院教授。近著に『賢い子はスマホで何をしているのか』(日本経済新聞出版)。
※『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2022」』から抜粋
朝日新聞出版