2018年時点でOECD平均の2倍以上と、幼児教育への私費負担が、先進国のなかでも重い日本において、親の意識や経済力が反映されやすい小学校受験は、格差につながるとして、批判の対象になりやすい。
だが、合格のために奔走する親を揶揄する「お受験」という言葉がうまれた昭和~平成初期を経て、現在伝統校に合格する子どもはサラリーマン家庭出身がほとんどだと、大原さんは指摘する。
「少子化のなか、親の教育観も多様化し、私立小学校側の情報公開も格段にすすみました。そもそも縁故者ばかりを合格させていたら、学校も企業も成長しません。あくまで受験者は『これまで自分はどのように成長してきて、どんな学校(=企業)だったら貢献できるか』という視点を大事にするべきです」(大原さん)
大手通信会社に勤めていた矢野さんと大原さん。全国で2%にも満たない「小学校受験」というニッチ市場での起業を後押ししたのは、当時の上司の「世の中のどんなに画期的なサービスでも2~3年以上もたせるのは大変。最後に生き残るのは、人と人のつながり」という言葉だったという。
「小学校受験という、学校と家庭をつなぐ初等教育の『入口』には、たくさんの可能性があると思いました。私たちは社会に出てから理不尽さや失敗を味わい、本当に大切なのは学力よりも、チャレンジ精神や個性を発揮することだと気づきました。なので、スイングの子どもたちには、失敗を恐れて行動しないことはよくないよと指導しています。他のお友達と違う『自分らしさ』についても、子ども扱いせずに徹底的に考えさせ、表現してもらいます」(矢野さん・大原さん)
教育の「入口」と「出口」における試験で、学力以外の評価材料が用いられる点について、学生と企業をつなぐ「出口」のキャリア教育に詳しい二上武生・工学院大学教授にも聞いてみた。
「日本の新卒採用は、『最終的に社会に貢献できる人間的な素養があるか』という学生のポテンシャルを、いわゆる『ガクチカ(=学生時代に力を入れたことの略)』というこれまでの経験を通してみています。私立小学校の入試でポテンシャルを測られているなら、その点で就活と共通していると言えますが、幼児の経験の多くは、育った環境に依存するため、慶應幼稚舎のような名門校では家庭環境を含めてみていると考えられます。ただ、こうした人間的な素養は、学力をつけていく過程で、後天的にいくらでも身につけることができるということを忘れてはいけません」
(曽根牧子)