矢萩:この「出遅れ」ってハード的な面、例えば、「サピックスに入塾できなくなる」などの話も入っているのかな? だとしたら話は簡単。例えば、ディズニーランドに行きたい、と言っている人にUSJに連れて行っても満足しないのと一緒で、どうしてもサピックスに行きたいなら、それは出遅れないように準備してください、という話になってしまう(笑)。そうじゃなくて、中学受験を経験することによって、より深く学びたい、成長したい、というのが目的であれば、「出遅れ」って考えること自体がナンセンスです。適切な学びや成長のタイミングは、人それぞれ違いますから。

■先取り勉強の貯金は枯渇してしまう

安浪:いろいろ不安な方は先取り勉強をやりたがるけど、先取りの貯金って4年か5年の夏ぐらいで枯渇してしまう。自分の頭で考えて学びを楽しめる子たちは、受験勉強のスタートが遅くても先発組を抜いていく。じゃあ何もやらなくていいんですか?と言われるとそうでもなくて……。すごく一般的な答えをしてしまうと、計算力をつけたり、語彙を増やしたりなどの勉強はできるだけ家庭で進めておくといいですね、となりますが。あとはとにかく、矢萩さんがおっしゃったように親子の会話の質はとても大切です。

 いろいろな体験をすることが大事、という話も出ますが、例えば低学年のうちに鉄道に乗ってさまざまな都道府県を巡ったり、世界遺産をいろいろ見て回ったとしても、それが中学受験に直接役に立つかどうかはわからない。もちろん、いろいろ体験することは大事です。でも、そういった経験をほとんど忘れてしまった、という子もいます。親御さんたちは、「これをやれば必ず身につく」「役に立つはず」って思いすぎかもしれません。

矢萩:そもそも「逆算の思考」だから、「特定の能力を身につけよう」「それを試すテストで高得点を取ろう」という話になってしまう。いざ受験を始めよう、ってなった時に、「よし、全力でやろう!」というだけでいいと思います。親御さんも、「私たちも全力でサポートするから頑張れ~!」というスタンスだけでいい。全力で取り組めば、結果的に必ず成長につながります。まだ、受験するがどうか分からないのに、するかもしれないからそのために「準備をしなければ」という発想自体が受験業界に飲み込まれていますし、かけがえのない今を大切に生きていないように感じます。ご相談者さんの不安な気持ちは分かりますが、学びの本質からは完全にズレてしまっています。そもそもなんで受験をしたほうが良いと思っているのかをちゃんと整理したうえで、本人の性質や状況と合わせて判断するべきだと思います。

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