5月8日に初日を迎える大相撲夏場所で、異色の東京大学出身力士が初土俵を踏む。文学部哲学科の須山穂嵩(24歳、木瀬部屋)だ。すでに新弟子検査を受検し、初日に正式に合格者として発表され、3日目(5月10日)から始まる前相撲で国技館の土俵に上がる見込み。国公立大出身の力士は過去に4人いるが、東大出身は初めてとなる。京都大学相撲部出身で、1年生の頃から須山を見てきた筆者が、その意義や彼の魅力、今後の可能性を語る。

 須山は埼玉県ふじみ野市出身で、さいたま市立浦和高校に進み、東大を受験して不合格。慶應義塾大学に入学したが、再び受験して文科三類に合格した。中学時代は野球部、高校時代は帰宅部だったが、格闘技をしてみたいと思い、相撲部に入部。その魅力にとりつかれ、高ぶる思いを抑えきれず、出稽古に通っていた元幕内・肥後ノ海の木瀬部屋へ入門した。

 本来なら今年3月で卒業しているはずだが、相撲に熱中し過ぎて、現在5年生。今年9月には25歳未満という新弟子検査受験の年齢制限を超えてしまう。そこで、在学中のまま入門し、木瀬部屋から大学に通うことになった。珍しい例ではあるが、過去にはモンゴル出身の時天空(東農大出、のち小結)なども同様の形で二足のわらじを履き、卒業している。

 異色の経歴で脚光を浴びることになった須山だが、「東大」という看板を抜きに、一人の新弟子として見ても大いに魅力的な存在だ。

 学生相撲は、高校までの実績十分の者が集う「経験者組」の大学と、大学から相撲を始めた「未経験者組」の大学とに大別される。未経験者組が経験者組を倒すのは並大抵のことではない。4年間で1勝もしていない者が大多数だ。しかし、須山はそんな壁を何度も破っている。相手には、日大、東農大、専大など、そうそうたる大学が並ぶ。全国体重別115キロ未満級の覇者・栗田裕有(早大)を上手投げで破ったこともある。

 相撲内容も堂々たるものだ。果敢に突っ張って機先を制し、まわしを取ると切れ味鋭い投げを放つ。攻め込まれた土俵際、素早く回り込んでの突き落としには、足腰の粘り強さと相撲センスを感じる。

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十枝慶二
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