大相撲の白鵬が土俵を去った。その歴史的記録の数々とは裏腹に、言動をめぐっては批判が相次いだ。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」12月号では、その白鵬が残したものは何だったのかを振り返った。
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大相撲の横綱白鵬が引退した。優勝回数や勝ち星数など数々の史上1位記録を持つ大横綱だが、現役中は批判にさらされた。理由は、引退会見で白鵬が語った、「土俵の上では鬼になって、勝ちにいくことこそが横綱相撲だと考えてきました」との言葉からうかがえる。
この写真は、現役最後の一番となった今年7月の名古屋場所千秋楽、勝って優勝を決めた瞬間の白鵬だ。大きく口を開け、全身で喜びを表している。このふるまいが厳しく批判された。この一番で見せた、ひじを相手の顔にぶつけ、手のひらで相手の顔を何度も張る、「鬼になって、勝ちにいく」取り口も批判された。
相撲では、勝って喜ぶ姿を見せることや、相手を傷つけるような取り口は、反則でなくても、「礼を欠いている」とされる。最高位の横綱ならなおさらだ。相撲はスポーツだけでなく神事や伝統文化、武道などの顔も持ち、多彩な魅力がある。「勝っても喜ばない」「相手を傷つけない」ことはなかでも大切な魅力とされる。白鵬もそれを知らなかったはずがない。しかし、批判を覚悟で鬼になり、感情を爆発させた。なぜなのか。
白鵬は毎年、日本全国や海外から1千人以上が参加する少年相撲大会「白鵬杯」を主催している。東日本大震災の際には被災地を訪れ、横綱土俵入りをした。どちらも、相撲界の常識からは生まれない行動だ。しかし白鵬は、自分の頭で何をなすべきかを考え、貫いて実現させ、多くの人に夢や希望を与えた。
それと同じように「横綱とは何か?」と自分の頭で考えた。偉大な先輩横綱に教えを請い、だれもが認める理想の横綱相撲を追い求めた時期もある。しかし、けがでそれは難しくなった。モンゴル出身の白鵬には、引退後に親方となって後進を指導するには日本国籍の取得が必要という事情もあった。そんななかで「鬼になる」と覚悟を決め、貫こうとした。批判を受け入れてやめた時期もあるが、最後の本場所では鬼になって優勝した。
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