さわ:でもそれが悪夢の始まりで(笑)。小5になると、受験を目指して本格的にみんな塾通いをするじゃないですか。小4までとは参加人数もレベルもけた違いで、私の成績はあっという間に下がっていきました。そのころから毎日が本当に苦しくて。とくに木曜日が来るのがこわくて仕方ありませんでした。
高濱:木曜日?
さわ:塾のテスト結果が家に郵送される日なんです。不謹慎な話ですが、大雨でポストが流れてしまえばいいのにと真剣に願ったくらい。今だから白状しますけど、カンニングもたくさんしました。でも成績はちっとも上がらなかった。
高濱:優等生ならではの苦悩ですね。
さわ:第1志望の私立中にはギリギリ合格できたんですが、中高時代の成績は上がらないまま、生きづらさがずっと続きました。やればできると言われると、やれない、努力できない自分が悪いんだと思ってしまうんです(少し涙ぐむ)。
高濱:そうかあ。ちなみにこの連載では、僕と同じように、優等生のレールからはずれた、はぐれ者が登場することが多いんですよ。さわ先生のようなザ・優等生は珍しいのですが、実際のところ、本誌の読者はさわ先生のような真面目な人が多数派だと思います。でもそのつらさを赤裸々に話してくれる人は少ない。どのようにしてそうした「生きづらさ」から脱出できたんですか。

「愛する子どものためにいい人生を」は一番の落とし穴
さわ:大学時代にいろいろ考えました。親の希望どおり、国公立の医学部を受けたのですが落ちてしまい、1浪して私立の医大に入学しました。でもこれは自分が希望した進路なのか、私は本当に医者になりたいのか、自分は何者なのかなど、ひとつひとつ自問自答しながら考えた結果、私はひたすら受け身の人生を生きてきたと気づいたんです。
高濱:自分で考えて気がついたのは素晴らしいですよ。自分の人生は自分のもので親のものではないというシンプルな事実に気づかずに、既存の価値観にとらわれて抜けだせない親子をこれまでたくさん見てきました。愛する子どものためにいい人生を、というレースから降りられない。教育熱心な親ほど陥りがちな、一番の落とし穴なんです。
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