矢萩:そうそう。たしかに電車が好きで、駅名と一緒に漢字にも興味津々っていう子、いますよね。でもそれって、実は「駅名の漢字」が好きなだけで、他の漢字にはまったく興味がない、というケースも多いんです。極端な例を挙げると、昔、暴走族の人たちって難しい漢字を使いたがったじゃないですか、「夜露死苦」とか。見た目がカッコいいから覚えるんだけど、実際に漢字テストになると普通の漢字は書けないんですよね(笑)。
安浪:あー、確かに(笑)。難しい漢字って子どもにとっては「かっこよさ」で覚えてること、ありますよね。

親の「下心」があるとうまくいきにくい
矢萩:もちろん、お子さんの電車好きはとても素敵な探究心のスタートだと思います。でも、だからといっていきなり受験用の漢字ドリルを渡しても響かないことが多い。今はまだ、「電車が好き」という気持ちを軸にして、その周辺の知識――たとえば電車にまつわる本を読んだり、資料を集めたり、時刻表を読めるようになったり――そういう学びの広がりの中で、自然と漢字や数の世界につながっていく段階なんだと思うんです。
安浪:そうですね。親の立場からすると、漢字や数字に興味があるなら、それをうまく伸ばして、塾に入るときに有利に……と考えてるかもしれませんが、そこに「下心」があるとかえってうまくいきにくいかな、と思います。ただただ「好きなことを思いきりやらせる」で十分ですよ。
矢萩:僕自身は、「中学受験に向けた勉強」をいつ始めるかは、結局「本人がやりたいと思ったとき」がベストだと思っています。本人の主体性を大切にしたい。でも、この質問には「大手塾に入るための準備」という意図も見える。そうであれば、やっぱり3年生〜4年生が一般的なスタートになります。
安浪:スタンダードな受験を目指すなら、それが目安になりますね。
矢萩:そこで違和感があるなら、「本当に大手塾でいいの?」「なんのために中学受験するの?」というところから考え直すべきです。そこを見つめ直すことで、この「いつから勉強を?」という質問が表層的なものに思えてくるはず。結局は、「この子にとって楽しく成長できる環境って何?」を考えることが大切なんです。
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