息子、不登校はじまる

 当時、私たち夫婦は共働きで、自宅は私の職場に近い東京・品川にあった。息子は、毎朝、保育園へ行きたがらず、私は仕事と育児で消耗しきっていた。限界を感じた私は、息子が小学1年生の5月に実家近くの藤沢市に急遽引っ越すことを決めた。

 引っ越したことにより、私の通勤時間は増えたが、夫の職場が近くなり妹である娘の保育園への送りは夫が担ってくれるようになった。

 たとえ私が仕事でお迎えの時間に間に合わなくても、両親も夫もいる、さらには弟夫婦も近くに住んでいる。その安心感は私にとって予想以上に大きく、私の心は日に日に元気になっていった。

 ただ転校先の小学校に通い始めた息子は、はじめのころは近所の友達と一緒に通っていたのだが、しばらくすると「行きたくない」と言い出すようになった。お迎えに来てくれる友達に「ごめんね、先に行っていて」と伝え、私や夫が息子を学校に連れて行く。息子を自転車にのせたり、車にのせたり、学校の近くまで行ってやっぱり帰ってくる、そんなことを繰り返すようになった。

 こんな大変な日々ではあったが、私は今までの保育園への送りで経験していたことの延長線上という感覚で、それどころかこれまで私一人で背負っていた苦しみを、今は夫や両親もわかってくれている、みんなで連れていけばどうにかなるだろう、とそのころはあまり深く考えていなかった。

 一方、夫や両親にとってはこれが始まりだった。「今日は行けたかしら?」。心配する母親からは定期的に電話がきた。「会社にいても息子のことが気になってしまう」。夫はそんな言葉をこぼしていた。夫や両親、先生や近所の友人たち、いろいろな方に協力してもらいながら息子は1年生を終えた。

「2年生は行けるだろうか?」――。そんな親の不安をよそに、息子は2年生にあがると学校へ通いだした。結局2年生は毎日のように通えた。これで大丈夫かと安心していたところ、3年生にあがった息子はまた学校に行けなくなった。

次のページへ「行く」と言うのに足が動かない
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