オーストリア人の大学生は学費無償ですが、留年などで卒業に必要な最低年数を超えた場合は、学費が発生しますし、相応の頭脳と実力を兼ね備えて大学入学を果たしても、卒業できるのは半数以下です。広大な講義室で大人数の講義を受け、孤独な中モチベーションを保って学業を修めた学生だけが、大学卒業にこぎつけることができるのです。

 学費が無償だからこそ、学校の機能は必要最低限で、家庭や個人への負担が増えてしまう、オーストリアの教育システム。大学卒業まで学費無償の恩恵を受けるのは、学問に適した限られた学生だけです。「無償の公教育」の裏では、高等教育にふさわしい生徒を厳しく選別する、適者生存の世界のようにも思われます。

 それでも、「大学まで学費無償」という制度は、進学費用の面で大きな安心感を与えてくれます。親の経済力とは無関係に、勉強が得意な子どもに高等教育を受けるチャンスを平等に与えるための、「国が子どもを育てる」社会システム。能力のある生徒は誰でも高等教育を受けることができる学費無償の制度は、子どもの可能性を最大限生かすことのできる仕組みなのかもしれません。

前編<オーストリアでは公立なら大学まで学費無料! 子育て世帯の手当や控除も充実の「社会システム」が実現できる理由とは?>から続く

【前編】オーストリアでは公立なら大学まで学費無料! 子育て世帯の手当や控除も充実の「社会システム」が実現できる理由とは?
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御影実
オーストリア・ウィーン在住ライター・ジャーナリスト 御影実

2004年よりオーストリア・ウィーン在住。国際機関勤務を経て、2011年より輸出輸入業の傍ら、オーストリアの社会、歴史、文化、時事関連の寄稿や監修、ラジオ出演や取材協力を行う。掲載媒体は、「サライ.jp」(小学館)、『るるぶ』(JTBパブリッシング)、『ハプスブルク事典』(丸善出版)等。中学生、小学生、幼稚園児の3児のバイリンガル育児中。世界 100 カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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