――子育て中のころのサトウさんのキッチンは、どんな様子でしたか。

 散らかり放題でした(苦笑)。キッチンカウンターには、子どもが拾ってきた石や飲みかけのペットボトル、真っ黒になったバナナがおいてあり……。漫画の中で、碧さんの子どもたちが未就学児くらいだったときのキッチンを描いていたとき、一瞬にして私が「あの頃のキッチン」に戻っていったことが面白かったです。描きながら自然と、「あ、危ないから机の角にコーナーガードをつけなきゃ」と気づいたときに、「すごい!ちゃんとお母さんをした記憶が出てきた」と、自分で感動しました。

――食べ終わった食器がシンクにそのままだったり、子どもがティッシュをまき散らしたり。散らかったキッチン近くのテーブルで、碧さんが子どもたちと作った様々な形のドーナツを食べている絵は、なんだか幸せな気持ちになります。

 この漫画を描くにあたり、いろいろな方に、子ども時代のキッチンにまつわる思い出を聞いてみたのです。そうしたところ、知人の65歳の女性が、「お母さんの作るドーナツが好きだった」とおっしゃったんです。

 ビニール袋に入れて、下部分をチョンと切って絞り出して、いろいろな形にして揚げてくれる、全部、形が違うドーナツ。「これはリンゴみたいだなー」なんて考えながら食べるのが好きだったのに、ある日、お母さんがドーナツ型を買ってきちゃった。そこからは、均一にドーナツ型に仕上がってしまうことが、すごく悲しかったそうです。このエピソードがすごく印象的でした。わたしも、息子たちとよく一緒にドーナツを作っていたことを思い出し、彼女の思い出とともに描いてみました。キッチンって家族のいろんな幸せな思い出が詰まっている場所だな~ってあらためて思いました。

子育ては楽しかったけど、“卒業後”の人生も楽しみ!

――漫画の中の碧さんは、子育て時代を振り返り「子育ては楽しかったけど、やっと自分の好きなことができる」と“卒業後”の人生にワクワク。サトウさんも子育て卒業後の楽しみはありますか?

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