日本も少子化で、労働力が減って大変だから産めよ産めよと言いますね。でも、こどもが欲しいと思わない人に産ませるという考え方はおかしいですよ。
春山 変ですよね。
中村 詩人のまどみちおさんがおっしゃったように、みんな「赤ちゃん、かわいいな」と思う目を持っているのです。でも今の社会は、その気持ちを抑え込んでしまう状態をつくっているわけでしょう。こどもの数が減っているのは、そうなった理由があるのであって、要は産みたくない社会をつくってしまった。
だから、お金を渡して「産みなさい」と言う今の日本の少子化対策は違う、と私は思います。同じお金を使うなら、保育士さんのお給料をちゃんと上げるとか、そういうことをやった方がいいと思います。
中国も、おそらく日本と同じような状況で、だんだん産みたくない人が出てきているからこどもが減ってきたということでしょう。人口が減ることで何らかのゆがみが出ることもあるかもしれません。でも、少子化で労働力不足の問題が出てくるから「産みなさい」というのは筋が違います。
こどもが欲しいと思えてみんなでこどもの誕生がよろこべる社会をつくり直すまでの時期をどう乗り越えていくか、その工夫こそ人間の知恵ではないでしょうか。
そもそも赤ちゃんは産むものじゃなくて、生まれるものなんです。生きものというのは、「生る(なる)」なんですよ。
春山 自発的に。
中村 以前は「恵まれる」という言葉を使いました。生まれてくるのです。でも、いつの間にか、「こどもをつくる」と言うようになりましたね。
春山 そうですね、「授かる」から、いつの間にか「つくる」に。
中村 「こどもをつくらないの?」と言いますよね。
今の社会は人間という言葉を使っていても、人間を生きものではなく機械のように見ているから、機械をつくるのと同じように赤ちゃんをつくる、と考えている。だから「数が足りないから産め」といった少子化政策になるわけですね。自動車が今は100台しかつくれないけど、これからは1000台つくろうというなら、つくれると思いますが、「数が足りないから産め」はないでしょう。本当にこどもがかわいくて大事だから生まれてくるのです。
やはり大事なのは、「人間は生きものである」ということを忘れないことです。そうした考えを根底に置いて社会制度を設計しなければ、うまくいかないと思います。
養老 孟司,中村 桂子,池澤 夏樹,春山 慶彦