毎日子育てに向き合っていると「よその子より少しでも賢くなるには」「親の努力で子どもに知恵をつけさせたい」と考えてしまいがち。でも、親の思うとおりにいかないのが子育ての常。長年、解剖学者・医学博士として人間を見つめてきた養老孟司先生は、子どもの未来を案じる本を多数出版してきました。本来、生きることは自然の営み。人間という動物として生き抜くために必要な子育ての感覚や、子どもが自ら人生を進むためにどのようなスタンスで子育てをしていけばいいのかについて語ってもらいました。「AERA with Kids2024年夏号」からお届けします。
【写真】無人島を脱出!子どもにも大人気の「2児のパパ」といえばこの人自然は努力でなんとかなる世界ではない
子どもは誰でも「自然」に近い状態で生まれてきて、そこから人間の社会に慣れながら成長していきます。昔は第1次産業(農業、漁業、林業)に就業している人が5割以上いて(※)、自然相手の仕事の中で「なるようにしかならない」と感じながら、子育ても同じような感覚でこなしていました。子どもも自由に自然の中に飛び込んで、五感を使いながら身体を動かし、想像力を養い、いろいろなことを自然から学んでいたのです。
親は子どもが人との関わりの中でうまくやれるよう、庭の木の「手入れ」をするように子どもに礼儀などを教えていました。常に注意を向けてはいるけれど、手を出しすぎない。木だって手入れをしすぎても、しなさすぎても枯れてしまいますよね。
現在は第1次産業就労者も減って「対自然」より「対人間」の仕事をする人が多くなりました。仕事では「努力で成果を出す」「正解を求める」ことが多くなり、子育ても親の努力やコントロールでなんとかなるのでは、という感覚になっています。子どもも頭を使うことが多いから、身体と心がアンバランスで居心地が悪いように見えます。
ぜひ子育て中の皆さんにはたくさんの自然に触れて「子育てが自然の営み」だと思い出してほしいです。自然とは「予測できないこと」「理不尽なこと」の連続で、努力でなんとかなる世界ではない。自然体験をたくさんして、いい意味で適当になることが今の時代必要なのではないかと思います。
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